使徒信条講解16
『主の陰府下り』

「キリストは、死んだ人にとっても、生きている人にとっても、その主となるために、死んで、また生きられたのです。」ローマ14章9節


(1)問題となる条項
 今回は使徒信条の主イエスの十字架の苦難についての告白の最後の部分から、「陰府に下り」という告白の持つ意味について学んでおきたいと思います。「陰府に下り」という一文は、いくつかの点から使徒信条の各条項の中でもしばしば問題となる部分です。その一つはこれが使徒信条成立の歴史の中で比較的後代になってから加えられた部分であると言うこと、そしてそもそもこの条項の根拠となる聖書の御言葉が多くないということにあります。まず第一の点についてですが、古ローマ信条をはじめとして、使徒信条に流れ込むいくつもの信条文書がありましたが、その中でもこの「陰府下り」の条項がそれらの文章の中に現れるのは早くて4世紀。本格的になるのは6世紀以降と言われています。つまりそれ以前の、教会の信仰の中ではキリストの十字架と死については共通の信仰理解があっても、陰府下りについては共通の理解を持っていなかったか、それ以前にそのような事柄自体が信仰項目に数えられるほどの重要さを持って教会の中に受けけ取られていなかったことを意味しています。
 実際、今日においても特にプロテスタント教会の中にはキリストの陰府の条項をあまり重視しなかったり、あるいはもっと極端にはこの条項そのものを使徒信条から除外しようとすることさえもが起こったりしています。というのはこの条項が成立してきた背景に、ローマ・カトリックの特殊な教理が横たわっていると考えられているからです。それは一ペテロ3:19「その霊において、キリストは捕らわれの霊たちのところに行ってみことばを宣べられたのです」の解釈を巡る問題でした。この御言葉をどのように理解するかは非常に難しい問題があるのですが、ローマ・カトリックにおいては旧約時代のキリスト来臨よりも前の時代に死んだ人々の霊が宿る場所を「リンブス・パトルム」(父祖の領域)と呼んで、十字架の死を遂げた主イエスが、そのリンボ界にいって旧約の使者たちに宣教をして救いに導いたという理解を持っていたのです。そしてそのことからさらに進んで、死後の中間状態における死者の救いの可能性や煉獄の思想が生まれたりもしたのです。このような主張は今日においてはプロテスタント教会の中にもしばしば見受けられるものでもあります。
 しかし私たちはそのような死後の中間状態や、死後の救いのチャンスがあるかどうかということについては聖書からその明白な答えを導くことができませんし、それについては沈黙すべきことと考えます。その意味でキリストの陰府くだりについて、何か聖書以外の思想を持ち込んでこれを理解することについては極力慎重でありたいと思うのです。

(2)主イエスの葬りの意味
 では私たちはこの使徒信条の中にあるキリストの陰府下りについての告白を、以上のような理由から削除してしまっても良いのでしょうか。確かに聖書が他の条項のようには明白に語っていない条項である点で、これを他の主要教理と同じ重みを持って扱うことはできないかも知れませんが、しかし同時に、聖書が明白に語っている真理。すなわち「キリストは、死んだ人にとっても、生きている人にとっても、その主となるために、死んで、また生きられたのです」という、このキリストの主であられることの生と死を貫く包括性と、その包括性を獲得するためのキリストの謙遜の徹底性についてはこれをはっきりと保っておくことが大切なのです。前回学んだように、キリストの死、葬り、陰府下りはキリストの低き状態の極みの姿でありました。神の御子が贖いの仲保者として私たちの救いのためにご自分の状態をこの葬りという低き次元にまでおとしめてくださった。キリストの謙遜を私たちはこれらの条項の中にしっかりと見つめるのです。
 ハイデルベルク信仰問答はこのキリストの陰府下りについて次のように記しました。これをもって私たちはこの条項の意味を受け取っておきたいと思います。第44問です。「問:なぜ『陰府に下り』と続くのですか。答:それは、私が最も激しい試みの時にも次のように確信するためにです。すなわち、私たちの主キリストは、十字架上とそこに至るまで、御自身もまたその魂において忍ばれてきた言い難い不安と苦痛と恐れとによって、地獄のような不安と痛みから私を解放してくださったのだと」。
 キリストが味わって下さった言い難い不安と苦痛と恐れ。それはまさしく「地獄のような」ものであったに違いありません。しかしそれは本来ならば私たち自身が己れの罪への報酬として受け取らなければならなかったはずのものです。その苦しみを主イエスが味わって下さったことによって、私たちは今やこの不安と痛みから解放されているのです。このことを心に刻みつつ、キリストの陰府下りの条項を告白するものでありたいと願います。




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