夕拝(主の祈り講解10) 2003/09/07
『悪より救い出したまえ』

マタイ6:13

今晩は、主の祈りの第七の願いである「悪からお救いください」の祈りを通して、主なる神が与えてくださる悪に対する勝利の希望について学んでおきたいと思います。

(1)「悪」か、「悪しき者」か
今晩取り上げる祈りを第七の祈りと申しましたが、これを先週学んだ「試みに会わせず」という第六の祈りと一体のものとして考えることが通常の扱い方であり、それが相応しいとも思います。しかしまたこの祈りを第六の祈りと分けて、この言葉そのものとして扱うこともまた有益だと思います。そこで今晩はこの祈りを第七番目の祈りとして取り上げているわけです。
 この祈りの言葉を読む時にまず立ち止まって考えなければならないことは、「悪より救い出したまえ」の「悪」と訳される言葉を巡ってです。新改訳聖書もこの部分に注を振って、欄外注に「あるいは『悪い者』」とコメントしています。つまりここで「悪」と訳されている言葉は、新約聖書のギリシャ語では男性名詞も中性名詞も同じ形なので、中性ととって「悪から」とも訳せますし、男性にとって「悪い者から」とも訳すことができるのです。この場合、どちらかが正しくて、どちらかが誤っているということではありません。悪の背後には悪しき者の存在があり、また悪しき者の働きは私たちに対して様々な悪の力となって及んで来るからです。しかし一つだけ確かなこととして覚えておかなければならないのは、あらゆる悪の力の背後に悪しき者の存在、すなわち神に敵対するサタンの存在があることをリアルに覚えることであり、このことをないがしろにして、悪の力との対決における霊的な戦いの側面を決して見くびってはならないということです。使徒パウロはエペソ人への手紙の中で次のように言います。「私たちの格闘は血肉に対するものではなく、主権、力、この暗やみの世界の支配者たち、また、天にいるもろもろの悪霊に対するものです」(エペソ6:12)。個人のレベルにおける悪、社会のレベルにおける悪、道徳的、倫理的、あるいは経済的、政治的、社会的、性的、あらゆる領域における悪の問題にも、その背後にうごめく悪しき者の力があり、私たちの戦いはそのような悪しき者との戦いであることを、今晩しっかりと肝に銘じておきたいと思うのです。

(2)神の救いの未来
しかし、すでに私たちが新約聖書を通して福音の言葉から聞いているように、そのような悪しき者の力に対する戦いにはすでに最終的な決着はついているのです。すなわち私たちの贖い主イエス・キリストの十字架と復活、昇天と着座の御業を通して、すでにサタンとの戦いには勝利がもたらされているのです。パウロはコロサイ書で次のように言います。「神は、キリストにおいて、すべての支配と権威の武装を解除してさらしものとし、彼らを捕虜として凱旋の行列に加えられました」(コロサイ2:15)。さらに、今日の祈りで「悪からお救いください」という時の「救う」という言葉は、新約聖書が通常用いる言葉ではなく、比較的希な言葉が用いられており、その意味するところは「敵からの救い、その危険や危機、迫害からの救い、死の恐れからの救い、試練や裁きからの救い」であり、しかもそれらはすでにイエス・キリストにおいて解決されるであろうことが先取りされている、いわば今の悪の状態から未来の救いの希望を約束として受け取っている祈りなのです。
そうであるならば、この「悪からお救いください」という祈りは、助けを求める悲痛な祈りではなく、希望としての祈りということになるでしょう。そしてその希望は神の国の到来と完成によって現実となり、その初穂となってくださったのが他ならぬ主イエス・キリストご自身であるということになるのです。このキリストの御業の確かさの故に、「私たちは、四方八方から苦しめられますが、窮することはありません。途方にくれていますが、行きづまることはありません」(IIコリント4:8,9)と語ることが許されるのであり、そればかりか、その希望に立ってなお「御名が崇められるように、御国が来ますように」と祈り続けることができるのです。
 ヴァルター・リュティというスイスの牧師が記す言葉を紹介して終わりたいと思います。「そもそもキリスト者は、この世の悲惨、戦争、飢餓、疫病、地震などにもはや甘んずることができない。キリスト者は、これらすべてのものが宿命であって、従って変更不可能であると言うことはできない。キリスト者は今や、われわれはこの世の悲惨に対してどんな事情があっても何かが出来ることを知っている。沈黙するのではなく、叫ばなければならない。そこからわれわれを救い出し、解放してくださいと叫ぶのである。つまりキリストの救いに一度あずかった者は、よりよい世界、未来の世界に対する飢え渇きを、もはやそう簡単に捨てることはないだろう」。このように私たちはこの祈りを未来に開かれた祈りとして、イエス・キリストにある未来に開かれた祈りとして祈り続け、この悪のはびこる時代のただ中で、主の御国の到来のために奉仕する者でありたいと願います。

 




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