綾小路はSM好きである。しかしながらその前に商売人であったのだ。この客間で垂れ流しをさせてしまえば、今後客足が遠のくことは必至だ。自店の損益分岐点から計算しても客単価二万円の前提で少なくとも毎月四十人の泊まり客を確保しなくては目標利益は到達できない。そんな折り、あそこの旅館は臭いとでも評判が立てば客足は遠のく。
さて紅がトイレに行っている間に綾小路のこれまでを振り返っておこう。彼は東京の江東区に生まれた。小学生時代はどこにでもいる普通の子どもだった。そんな彼がSMに目覚めたのは、とある本屋でみた奇談クラブというカストリ雑誌を見たときから始まる。彼はSMという言葉に魅了される。しかし中学生の分際で女性を縛ることなどできない。また当時は社会環境もSMに対して寛容ではなかった。しかし心の中に起こってしまった加虐の口火は理性によってかき消す事は不可能に近い。彼は日夜もんもんとした日々を過ごす。夜中に無性に苛めたくなると、近くの枕や布団、果ては机までも縛りだす。彼の今の縄のテクニックはこのような経験の上に成り立っているわけだ。
彼が、初めて女性を経験したのは二十才の時、相手は自分よりも二つ上の学校の先輩。彼女はすべてにおいてリードしてくれた。しかし綾小路の欲求の根元はSEXではない。ある日彼は意を決して彼女に打ち明ける。
「ねえ、珠美。縛らせてくれないか?」
彼女は驚いた顔をしたが、元来性に対して旺盛な考えの持ち主だったことや、綾小路と付き合いはじめるうちに信頼のおける人という認識を持っていたので彼の要求を飲んだ。その夜の珠美の乱れようはすごいものであった。紙面でご紹介する事ができなくて残念であるが、別れ際にはこのままずっと縛っていて欲しいとさえ綾小路に懇願したくらいである。
その珠美に始まり、幾度となく女性に縄の味を教え去っていく男・綾小路。そんな彼も齢五十を数えるにいたった。端正なマスク、かみそりなような目つき、しかし彼の行為はすべての女性に「愛」という名の喜びを提供する。彼の「愛」にかかると、子どもさえもほっておきプレイを始める女たち。子どもが泣き叫ぶ中で喜ぶ声をあげる女性たち。いつしか綾小路は「地獄の子泣きじじい」と呼ばれていた。
今、彼は、広島のとある旅館で主としての役割を果たしている。その経緯は「子泣きじじいの挑戦、若い女性ばかり集まる不思議空間・縄文館の謎」(遠山書房、1冊二千三百円)に詳しいのでそれを参考にして頂くとよいだろう。ただ彼の経営者としての資質は目覚しく、旅館組合などの勉強会での見学によく彼の旅館を訪れる同業者がいることを付け加えておく。
さて紅に話を戻そう。ようやくお腹の中のものを絞り出した紅はおずおずと綾小路の前に歩み出た。綾小路はすでに裸になってあぐらをかいている。彼の一物は齢五十とは思えないほど立派であった。正確な度数は図ったわけではないから分からないがゆうに仰角八十度はこえるだろう。まさしくそそり立つ黄金の金字塔とでも呼ぶべきものである。
紅は我慢ができない。その赤く妖しい唇が金字塔に近づく。軟体動物のような舌で塔に潤滑をつけはじめる。十分に潤ったところで紅は後ろを向いた。紅のアヌスが塔に近づく。ゆっくりとおろさせる腰。ぐ、ぐと紅のアヌスにのめり込む塔。
腰を浮かしながら綾小路が中腰になる。紅はつきさされた格好のまま手を前につく。犬のようなスタイルだ。徐々に綾小路が機関車のような動きを初めた。紅は腰を降りながら目を半開きにして口からはよだれをだしながら責めを甘受している。何度のピストンのときだろうか?紅の頭ではじけるものがあった。口からは野獣のような咆哮。紅は今日七度目の絶頂を迎えると同時に気を失ってしまった。
紅が目を覚ますとそこにはあかりの姿があった。
「紅、昨日どこ行っていたの?私が部屋に戻ると紅がいないじゃない。でも荷物や服はおいてあるから御風呂にでもいったのかと思って私は先に寝たけどね」
「う、うん、御風呂にいったのよ。それであかりはどうだったの?」
「それが大変!」
というなりあかりは昨日の一部始終を話しはじめた。
紅は笑い転げ、「何、それ!じゃあ、あの助けてくれた人じゃなかったの?」
「そうなのよ、ハンドルでまこって聞いていたからてっきりあの人と思ったけど違ったみたい」
「でも人違いでもちょっとひどすぎるよね。で、そのおばあさんどうしたの?」
「仕方がないから池から引っ張り上げたわよ。もう池に落ちたときに、私を苛めようという気持ちもきれいさっぱり水に流したように落ちていたけど。でも、ちょっぴり気持ちが良かったのは事実ね。だって彼女の御玉さばき、尋常じゃなかったわよ。紅だったら、何度いかされていたかもしれないわよ?」
「いや、私はパス」
「でもお年寄りの人って結構すごいよね〜」
紅は今度のメイトはお年寄りでもいいかなとあかりの話を聞きながら思った。
二人は帰り仕度を澄まし、フロントにチェックアウトにいくとフロントには柔和な顔をした綾小路がいた。
「お客様、昨日はよく御休みになれましたか?」
「ええ、お!おかげさまで・・」
紅が答える。
「それは良かったです。またお越しください。今度は一人でお越しくださいね。 お・客・さ・ま」
紅にしか聞こえないような小声で話す綾小路。ほほを赤らめながらうなづく紅。
「どうしたの?紅、何赤くなっているのよ」
「う・うん、何でもない」
「じゃあ、おじさんありがとうございました」
二人は外にまたせたタクシーに乗り込み広島駅までタクシーを走らせた。
「お客さん、どうですか、あの旅館、楽しかったですか?」
「ええ、楽しかったですよ」
「そうですか・・・いや確かにあの旅館は新しいしサービスもいいんですけどね、他にもこの界隈はそんな旅館はいくらでもあるんですよ。でもね、あそこ だけなんですよ、若い女性ばかりが来るところというのは。それも一度 来たら何度でもくるんですよね。なんか秘訣でもあるんでしょうかね。 われわれタクシー仲間も不思議がってましてねぇ」
「そう?そんなに何度も来たいところじゃないわよね。紅・・・?」
紅はあいまいにうなづきながらも、たぶんこの地に自分も再び訪れるであろうという確認にも似た気持ちを抱いていた。
終
なお、この物語は全てフィクションです(笑)