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読書人
『ティンパウ物語―蛇神の杯』の書評

かつての琉球やアイヌのように

〜非武装・中立で権力を否定するユートピアを舞台に

              「週刊 読書人」2010年5月21日(金) 名取弘文



 本の題は『ティンパウ物語 蛇神の杯』とあり、蛇神にはナーガとルビが振ってある。表紙カバーには不思議な図柄のヘビの胴体が描かれている。蛇神に関わる物語なのだろうけれど、どこを仮想の地としているのか見当がつかない。
 が、本を開くと二つの島の地図で、この物語の舞台は沖縄だと分かる。地図の大きな島にはオーナンチュ島、小さな島にはウルパナ島と名前が付けられ、方位はアガリ・イリ・ペー・ミシ(東西南北)とある。このところ、ヨーロッパ・アメリカ系のファンタジーでなくアジアの大地と歴史を舞台とした作品を読みたいと言っている私としては歓迎したくなる作品だ。また、沖縄は琉球処分から現代にいたるまで日本による不当な介入を受けてきた地である。その沖縄を日本人である堀切リエがどのように描くのか、期待せずにはいられない。
 さて、物語はオーナンチュの歴史と地理の説明から始まる。海を隔てた北に大陸があり、南には大きな島々がある。この北と南を行き来する船を襲う海賊たちがオーナンチュにはたくさん住んでいたというのだ。その北の半島にミュンという大国ができ、武力を強めオーナンチュを支配しようとする。ところがオーナンチュは北、中、南の三つの部族が内戦を始めてしまう。そこでプシャ(ゆたのことらしい)の女たちはストライキを始め、ついに三つの部族の長たちに話し合いをさせる。そこでできた結論が「この島ではだれも武器を持ってはいけない。武器を手放さない者は島から追放する」という掟だった。そして、ミュン国との交渉人(シジリとルビがある。外交官である。)を派遣し、オーナンチュが交易の間に入ると提案する。交渉を成立する。オーナンチュでは学校を作り、シジリの養成が盛んになる。シジリは学問だけでなく、相手をもてなし、心を開きつなげるために踊りと楽器ができなくてはいけない。
 堀切リエが描くのは、非武装・中立で交易で立国しようとするユートピアなのだ。いや空想の国ではなく、かつて琉球もアイヌもそうだったのだ。そして、もう一つ重要なのは、物語が女・子どもによって展開していくことだ。しかも、ここには女王や王女、貴族や金持ちは出てこない。権力を否定しているのだ。(フランス映画『女だけの都』はスペイン軍が宿泊するというので右往左往する王や貴族、軍人たちを隠し、女だけで接待し、翌年の税金まで免除させるという内容だが、中心は王妃だった。)
 そのオーナンチュで、ミュン国と南の島々の人たちを招いて祭典をする直前、硫黄を交易品に入れたいという申し出があり、不穏の動きが出てくる。祭りに「虹」という踊りを舞う子ども七人が「体を清める」ためにと言われて穴ぐらのような部屋に連れて行かれる。踊りが大好きな少女ククモイと親友のネアクは赤い液体を飲まされそうになるがうまく逃げ出す。ククモイはそのとき杯を持ってくる。
 ウルパナ島の祖母のところに逃げたククモイなのに、祖母は家に入れてくれない。そして十数年前に七つ頭の蛇を奉るミーツカイを追放したと話す。
 小学校六年生のときから「ファンタジーの長編を書きたい」と思っていたという堀切リエと「ナルニアと指輪物語が好き」とうなずいた松田シヅコは唐十郎が大学の中に設置した「実験劇場」でアングラ演劇をしていたという。なるほどと思えるデビュー作である。
 基地に苦しむ沖縄の人たちに贈りたい作品である。
(なとり・ひろふみ氏=おもしろ学校理事長)
 





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