アウトライナーとしてのWord

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アウトライナーとしてのWord

Wordのアウトライナーに対する違和感

90年代半ば以降、単体製品としてのアウトライナーが廃れてしまった大きな要因は、アウトライン操作のための機能がワープロやエディタ、プレゼンソフトの中に組み込まれるようになったからとよく言われる。あのDave Winerもそうした見解を述べていた。

その代表的な製品がMicrosoft Wordだ。Wordには、批判はたくさんあるけれど、それなりにしっかりとしたアウトライン機能が装備されている。Wordがあれば、わざわざアウトライナーを入手する必要なんかないじゃないかという意見は多い。実際、Wordは最も普及したワープロであるだけでなく、最も普及したアウトライナーでもある。

ぼく自身、アウトライナー入門にいちばん適しているのはWordのアウトラインモードだろうと長い間考えていた。それは以下のような理由による。

  1. もっともありふれたポピュラーなソフトのひとつであり、身の回りのパソコンに既にインストールされている可能性が高い。
  2. (第一の理由とも関係するけど)既に利用経験がある可能性が高いこと。アウトライン機能の使い方だけを覚えればいいから、敷居が低い。
  3. アウトライナーとしての基本機能を過不足なく備えていること。

実際、このRenji Talkのスクリーンショットにも、当初はOPALではなくマック版のWord2004を使用していた。

でも、実は一方で、アウトライナーの本当の魅力はWordのアウトラインモードを使っても理解できないのではないかという感覚が常にあった。それは個人的な経験からきている。

1993年に最初のパソコンを買ってからのほとんどの期間、ぼくはマックユーザーだった。唯一、自宅で仕事をしていた90年代末から2004年までの間、Windowsマシンを使用した。仕事上の必要ということもあるし、当時はマックが最も低迷した時期だったということもある。

マックからWindowsに移行したとき、いちばん困ったのは、アウトライナーのActaが使えなくなることだった。好みのアウトライナーの1つや2つ、Windowsにもあるだろうと考えていたのだが、甘かった(WindowsにもSolというActaにかなり近い感覚で使えるアウトライナーがあるが、当時は知らなかった。InspirationのWindows版という選択肢もあったが、値段が高すぎるのと操作体系がWindowsに馴染んでいないのを敬遠した)。

Windowsに多い2ペイン型アウトライナーは、最初から自分の目的には馴染まないとわかっていたので、したかなく1ペイン型であるWordのアウトラインモードをメインに使うことになった。でも、どうもマックでActaを使っているように使えない。

Wordが役に立たないわけではなく、仕事のレポートを書いたり、インタビュー結果を整理したり、打ち合わせ内容をまとめたりする目的には何の不足もない。要するに、外部の情報を整理したり、外部用に形にする目的には充分使える。でも、自分の思いついたことや考えたことを蓄積して、発酵させ、組み立てていくような用途に使おうとしても、うまく機能しない。

実はWordは決して嫌いではないので、マック時代から何度もWordをメインのアウトライナー(兼・ワープロ)に使おうとしたことがある。でも、なぜかダメなのだった。

この時期にDave WinerのOutliner.comを発見して、アウトライナー熱が再燃したのだが、自分の手元には満足のいくアウトライナーがなくて、けっこう歯がゆい思いをした。

アウトライン項目の扱い方の違い

2005年にマックに戻り、改めてOmni Outlinerや、後にはOPALを使うようになってみると、問題は機能の差ではなく、むしろ柔軟性の差だということがわかってきた(機能の数でいえば、ActaもOPALもWord以上にシンプルだ)。そのカギは、アウトライン項目の扱い方だ。

Wordのアウトラインモードつくったアウトラインは、通常モードに切り換えると文書の「見出し」とみなされる。つまり、Wordのアウトラインとは、見出しの階層そのものだ。だから、Wordでアウトラインを作ろうとすると、いやおうなしに出来上がった文書の見出し構成を意識することになる。

一方OPALやOMNI Outlinerなどは、アウトライン項目の一行一行が見出しにもなるし、内容にもなる。どちらなのかを規定するのは、アウトラインの階層だけだ。全ての項目を、どのようにでも自由に入れ子にすることができるので、行をそのままにしておけばそれは本文段落になるし、下位に別の行を配置すれば、それは見出しとなる。本文段落の下にさらに段落を入れて注にすることもできる。

よく誤解されているが、作成中のアウトラインは、完成した文書の見出しと一致する必要はない。「アウトラインて、要するに目次だてのことでしょ」というのは間違いなのだ。「見出し」は、ある程度まとまったテキストの塊を括るものだ。だから見出しに縛られると、見出しになり切れない細かい断片を、うまく操作することができない。出来上がりの文書の構成や形式に縛られない柔軟性が、自由に自分の考えを組み立てていく用途には何よりも重要になる。

たとえばOPALではいろいろな思いつきをアウトラインの中に投げ込んでおいて、いろいろと組み替えながら徐々に発酵させ、ひとつのテーマをもった文章に成長させていくという使い方が自然にできるけれど、Wordで同じことをするのは難しい。

私的「真のアウトライナー」で示した条件の中で「1ペイン型であること」とともに「本文と見出しを区別しないこと」をあげたが、それはこの理由による。

Wordのメリット

とはいえ、Wordのアウトライナーは独自のメリットがある。

前にも書いたように、Wordではアウトライン項目は、そのまま完成品の文書の「見出し」として扱われる。これはまだ完成していないアイデアやコンセプトを操作する段階では、かえって足かせとなってしまう。しかし、論文やレポートなど、構造を持った大規模な文書を作成する際の、中盤以降の作業(たとえばラフなドラフトが出来上がったところから、文書の完成まで)の作業では、逆にこの見出しとアウトラインの連動が有効になる。

決定的な違いは、Wordはアウトラインと完成品の文書の間を行き来できるということだ。たとえばアウトラインを組み立てつつ、テキストも入力して、ドラフト(下書き)をつくったとする。できるだけ内容を詰めて、アウトライン上で完成に近いところまで持っていく。

完成に近づいたと思ったら、アウトラインモードから標準モード(あるいはページレイアウトモード)に切り換える。すると、アウトライン項目がそのまま章、節、項などの見出しとして表示される。

Wordではアウトライン項目=見出しは、9レベルまで設定できる。もちろん、見出しらしく見えるように自動的に書式が整っている。この書式は、デフォルトのままではほとんど使い物にならないが(マイクロソフトらしい)、自分で好きなように設定できる。うまく設定すると、アウトラインを作るだけでほとんど自動的に書式の整った文書ができあがる。

問題はここから先だ。奥出直人さんも書いているように完成品に近い(見映えをきれいに整えられた)紙面で読んでいくと、下書きをしていたときには気づかなかった欠点がいろいろと見えてくる。文字の直しくらいならその場ですればいいけれど、場合によっては構成全体を変更したくなったりもする。たとえば、第1章と第2章を入れ替えた方が説得力があるな、と思う。

たとえばOPALなどの専用アウトライナーを使ってドラフトを書いたとして、それをワープロなりDTPソフトなりウェブページなりに読み込んで提出用に書式を整えてしまった後に、構成を変更したくなっても、もうアウトラインに戻ることはできない。

でもWordであれば、もう一度アウトラインの視点から全体を俯瞰したいと思ったら、アウトラインモードに切り換えればいい。一瞬のうちに文書全体がアウトラインとして操作できるようになる。項や節全体といった、大きなテキストの塊を、マウスひとつで簡単に移動させることができる。大きなリビジョン(改定)作業が、通常のワープロ画面で行なうよりもはるかに楽に、そして間違いなく行なうことができる。文書作成の最後の最後までアウトライナーのメリットを享受できるという点で、論文やレポートのような構造を持った大規模な文書を作成するには、Wordはとても有効なのだ。

ついでにいえば、アウトライン機能を使って作成された文書であれば、目次も自動的に作成できる。もちろんアウトラインを組み替えれば目次は自動的に更新される。提出期限ぎりぎりまで文書に手を加えることを考えれば、この機能のありがたさがわかる。こういう使い方は、専用アウトライナーではできない。

こうしてみてくると、OPALなど見出しを分けないタイプの専用アウトライナーは文書作成の初期から中期に特に有効なのに対して、Wordなど見出しとアウトラインが連動したワープロ組み込み型のアウトライナーは、中期から後期に有効なことがわかる。

ぼくは今のところ大規模な論文やレポートを紙に出力するという個人的な需要はないけれど、もしその必要があるのなら、資料集め・アイデア出しからドラフトの段階まではOPALなどの専用アウトライナーを使い、その後の段階はWordに読み込んで作業をすると思う。

ただし、これは紙のドキュメントとして出力することを前提にするからであって、そうでない場合(たとえばこのサイトのコンテンツのような)には、最後まで専用アウトライナーでいってしまっても何の問題もない。

なお、アウトライナーとしてのWordの使い方については、中野明著 論理的に思考する技術―みるみる企画力が高まる「アウトライン発想法」 (PHP文庫) がとても参考になる。この本は、ぼくの好みからすると、内容が少々ビジネス寄りだけど、アウトライナーとしてのWordに全面的にスポットライトを当てた、ほとんど唯一の本として、おすすめです。