最初のアウトライナー

Renji Talk Top > Happy Outlining ! > 最初のアウトライナー

最初のアウトライナー

アウトライナーの生みの親、デイブ・ワイナー

実験室の夢のマシンではなく、商品として発売され、一般のユーザーが手にすることができる最初のアウトライナーは、Living Videotext社の「ThinkTank(シンクタンク)」です。このThinkTankを開発したのがデイヴ・ワイナー(Dave Winer)。今日のPCで使うようなアウトライナーが、ワイナーの手によって生まれたことは、ほぼ間違いありません。

そのアイデアと機能はすでにエンゲルバートらが15年も前にNLSの中で具現化していたにも関わらず、ワイナーはアウトライナーの祖と見なされています(アウトライナー/アウトライン・プロセッサー/アイデア・プロセッサーという用語も、おそらくワイナーたちの作ったものです)。

このワイナーという人はさまざまな意味でパーソナルコンピューターに大きな影響を与え続けている人で、最近ではニュースやブログなど各種のウェブサイトの更新情報の配信に使われるRSS規格の策定に関わっています(人間的にも非常に興味深い人なんですが、それはここでは置いておきます)。

プログラミング用エディタからアウトライナーへ

ワイナーによれば、アウトライナー誕生の経緯は、彼がウィスコンシン大学の学生だった1970年代半ばまでさかのぼります。ワイナーは、あるテキストエディタを目にして感銘を受けました。それはコンピュータ言語LISPの専用エディタでした。

LISP言語の特徴として、入れ子状の階層構造を多用するようなコードの書き方があります。この階層構造を上手く扱うことが、LISPのプログラミングを楽に、効率よく行なうことにつながります。そこで、LISP用エディタは、ソースコードの階層を必要に応じて折り畳んで、全体の構造を見通しをよくする機能を持っていました。ワイナーはこの機能に感銘を受けたわけです。

ワイナーは、まず同様な機能を実現するPascal言語用のエディタを書くことにしました。このエディタはソースコードの展開・折り畳みや、折り畳まれた単位ごとの入れ替えといった、アウトライナーの基本機能をすでに備えていました。

次の段階としてワイナーが目指したのが、プログラム言語以外のテキストでも同じことを実現することでした。普通のテキストに階層構造を持たせ、それを折り畳んで全体を見通したり、順番を入れ替えたりできるエディタ。つまり、プログラマーでない人が、普通の文章を書くために使うことができるもの。それが後のアウトライナーの始まりでした。

プログラマーがプログラミングに用いる道具として発展した機能が、文章作成の技法として行われていた「アウトライン」と結びついたところにアウトライナーが生まれたのです。1979年のことでした(このあたりの経緯はWiner自身の記述によりますが、当時のワイナーがエンゲルバートのデモのことを知っていたのかどうかは定かではありません)。

追記:後にワイナーはエンゲルバートと食事を共にしています。そのときの様子を書いたブログポスト「エンゲルバートとの食事」の日本語訳も掲載しているので、興味のある方はどうぞ。

ワイナーとThinkTank(シンクタンク)

当時はApple IIの全盛期でした。ワイナーはアップルコンピュータにこの新しいソフトを売り込もうとして断られ、Personal Software社と契約することになります。Apple II用の元祖・表計算ソフト(元祖ビジネスアプリケーションでもある)「VisiCalc(ビジカルク)」を販売していた会社です。ワイナーの表現を借りれば「当時のシリコンバレーでいちばんホットな会社」です。

ワイナーの階層エディターはVisiシリーズの一環として販売されることになり、VisiText(ビジテキスト)と名づけられましたが、寸前に社の方針が変わり、発売はキャンセルされてしまいます。ソフトの権利を手にPersonal Software社を去ったワイナーは、自ら「Living Videotext(リビングビデオテキスト)」社を興してソフトを販売することりなります。名称はVisiText改めThinkTank(シンクタンク)。当初Apple II用として登場し、次いでIBM-PC、更に鳴り物入りで登場したMacintoshにもいち早く対応します。

ちなみにPersonal Software社を辞めた後ワイナーはしばらくの間「遊んで暮らして」おり、その間にLBBS(Living Bulletin Board System)という電子掲示板システムを開発しています。LBBSは書き込みに対する返信が元に書き込みの下にぶら下がるように表示され、今日でいうスレッド表示を行なうことができました(つまり、アウトライナーの階層表示の応用でした)。

ThinkTankはプログラマーでないユーザー、特に物書きを生業とする人々の間で評判になります。奥出直人は、当時の様子をこう書いています。

「シンクタンク」という最初のアウトライン・プロセッサーが出たときに、プロの物書きたちが高校生の作文の時間に習ったことみたいだと馬鹿にしながら戯れに使ったところ、非常に便利だとびっくりしたことから、このソフトは評判になった。プロの物書きたちはアウトラインを作ってから文章を書いたりはしないのである。コンピュータの中でアウトラインを作り、文章を書き、それをあれこれと操作する。この作業は思いつきのアイデアを加工して(プロセスして)ライティングへと仕上げていく複雑なメカニズムの助けになっていたのである。
奥出直人「思考のエンジン」 p.110

特にマック用として本当に「使える」最も初期のプログラムのひとつだったこともあり、マックの(おしゃれで知的な)イメージとも相まって「創造的な仕事をする人のためのソフト」というイメージが確立されていきました。自身が物書きであるコンピューター雑誌のレビューアーたちの好意的な評価が、これに拍車をかけた、ともワイナーは書いています。

アウトライナーの普及

アウトライナーの恩恵を受けたのは物書きだけではありませんでした。アウトライナーの機能は実にさまざまな用途に応用できたのです。ThinkTankの箱裏には、用途としてマーケティングプラン、文章書き、スピーチ原稿、提案書・企画書、アンケート、スケジュール、セールストーク、カスタマーサービス、訴訟書、ブレーンストーミング、プロジェクト管理、ToDoリスト、行動計画、調査ノート、開発使用者、事例紹介、履歴書、カレンダー……などどがあげられています。つまり、ホワイトカラーの行う仕事のほとんどに、アウトライナーは応用することができたのです。

アウトライナーは知的ワーカーのための新しいジャンルのソフトと受け止められ、法律家、弁護士、医者、マーケティングの専門家など知的エリートの間に愛用者が広がっていきました。