エンゲルバートとNLS

Renji Talk Top > Happy Outlining ! > エンゲルバートとNLS

エンゲルバートとNLS

伝説のデモ

コンピューターを用いたアウトライン操作の概念を発明し、実際に形にしてみせたのは、マウスの発明者として有名なダグラス・エンゲルバートでした。

ダグラス・エンゲルバートとその研究チームは、1960年代にスタンフォード研究所(SRI)にあるAugmentation Research Center (ARC)で、NLS(oNLineSystem)と呼ばれる革新的なコンピュータシステムを設計・開発し、1968年12月8日、サンフランシスコで大勢の技術者らを前にデモを行いました。

このデモが伝説的な存在となっているのは、それが当時としてはあまりにも画期的・革新的だったから。ブレゼンテーションはエンゲルバートが実際にシステムを聴衆の前で実演する形で行われましたが、システム自体はメンローバークにあるARCに置いてあり、操作は電話回線を通じて行われました。ヘッドセットをつけて操作しながら説明するエンゲルバート自身の姿と、操作画面の様子は、20フィートという巨大なスクリーンにリアルタイムで表示されていました。このデモは、今日のオンラインのプレゼンテーションやデモの元祖と言われています。

それだけでなく、そこで聴衆が目にしたものには、(これも世界最初の)マウスによって操作されるワードプロセッシング、ハイパーテキストリンク、グループウェア……今日お世話になっているデスクトップ・コンピューティングのほとんどの要素が、既に含まれていたと言われています。そして忘れてはいけない、アウトライン・プロセッシングも。

ちなみにぼくが生まれたのはこのデモが行われる10日前のことです。アウトライナーは今年40歳になることになります。

NLSのアウトライナー

このデモの様子は、今ではYouTubeで簡単に見ることができます。

実際にみてみると、その内容はとても60年代のものとは思えないもので、確かにハイパーテキストリンク、そしてアウトラインをリアルタイムで操作してみせています(時代を感じさせるのは映像がモノクロであるということと、エンゲルバートの髪形くらいです)。

余談ですが、見ているとけっこう動作の不具合とかがあって、スムースに動いていないのですが、エンゲルバートが機転とユーモアで切り抜けていることがわかります。プレゼンターとしての能力も高いことがわかります。

途中、アウトラインを画面上で操作してみせるところがあります。アウトラインを自由に折り畳み・展開し、順番を入れ替え、ナンバリングし、一部の項目だけを切り出して表示し……今日のアウトライナーの機能がこの時点で既に完全に実現されていることに驚かされます(ちなみに、例として作成しているのは「買い物リスト」です!)。アウトライン操作だけでなく、ハイパーテキストの機能とシームレスにリンクしているなど、ある意味では今日デスクトップで使っているアウトライナー以上の能力を持っているようにもみえるくらいです。

アウトラインで買い物リストを編集するシーン

一般ユーザーがアウトライナーを手にするのは更に14年後

残念ながらエンゲルバートのシステムは普及しませんでした。革新的ではあったのですが、あくまでも研究所の中で使われる専門家向けの高度なシステムであり、操作も独特で、技術者にとってさえも習得は簡単なものではなかった、というのがその理由です。もちろん、一般人が触れられるものではありませんでした。

一般のユーザーがアウトライナーを手にするのは14年後、AppleII用のThinkTankの登場まで待たなければならないし、マウスやピットマップディスプレイやGUIを装備したパーソナルコンピューターを手にするのは、その更に2年後、Macintoshの登場まで待つ必用があります。