継続雇用制度の導入への対応

継続雇用制度の導入を選択した場合、企業の対応策をまとめました。

(1)労使で再雇用に係る基準を協議

経営者は、再雇用制度の対象となる従業員に係る基準を、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者と協議します。

継続雇用の対象者の選定に当たっては、企業によって必要とする能力や経験等が様々であると考えられるため、労使間で十分に話しあい、その企業にもっともふさわしい基準を労使納得のうえ決定することが大切です。

ただし、事業主が意図的に継続雇用対象者を排除するような基準は法改正の趣旨に反しますので、認められません。

例えば、「会社が必要と認めた者に限る」とか「上司の推薦がある者に限る」というような基準は認められません。

望ましい基準は、具体的で客観的な基準です。

例えば、人事考課が本人にフィードバックされていることが前提ですが、「過去3年間の人事考課がB(平均)以上で健康な者」という基準も設定可能です。

以下により詳しく一般的に認められる基準例について紹介します。

@「働く意思・意欲」に基づく基準例

    引き続き勤務することを希望している者

    定年退職後も会社で勤務する意欲がある者

    本人が再雇用を希望する意思を有する者

    勤労意欲に富み、引き続き勤務を希望する者

    定年退職○年前の時点で、本人に再雇用の希望を確認し、気力について適当と認められる者

A「健康」に関する基準例

    直近の健康診断の結果、業務遂行に問題がないこと

    直近3ヵ年の定期健康診断結果を産業医が判断し、就業上支障がないこと

    60歳以降に従事する業務を遂行する上で支障がないと判断されること

    定年退職1年前の時点で、体力について適切と認められる者

    体力的に勤務継続可能である者

    勤務に支障がない健康状態にある者

B「能力・経験」に関する基準例

    過去3年間の賞与考課が管理職○以上、一般職○以上であること

    過去3年間の平均考課が○以上であること

    業績考課が普通水準以上であること

    工事・保守の遂行技術を保持していること

    職務資格が○級以上、職務レベル○以上

    社内技能検定○級以上を取得していること

    建設業務に関する資格を保持していること

    技能系は○級、事務系は○級以上であること

    定年退職時管理職であった者、又は社内資格○等級以上の者

    企業に設置義務のある資格又は営業人脈、製造技術、法知識等の専門知識を有していること

再雇用者に係わる一般的な基準例は上記の通りですが、必ずしもこれにこだわる必要はありません。企業の賃金負担等を考慮し、戦力となる人材を基準とすることも可能です。また、基準は一つである必要はないので、上記基準の組み合わせも可能です。

例えば、下記の条件全てを満たす者という基準も可能です。

@    定年退職後も勤労意欲が高く、引き続き勤務を希望するもの

A    定年退職時○等級以上の者

B    退職3ヶ月前に会社が実施する健康診断で、業務遂行上支障のない者

ポイントは、基準に「具体性」「客観性」があることで、あとは、経営状態、年齢構成等個々の会社の内容により異なってくることになります。これらの点に配慮し、労働組合の代表者または労働者の過半数代表者と腹を割って基準を作成することになります。

(2) 高年齢者雇用確保措置年齢の決定

高年齢者雇用確保措置年齢は、65歳までが原則ですが、特例として62歳から65歳まで段階的に引上げることも認めています。そこで、自社の現状を踏まえ、65歳までに一気に引上げるか、段階的に引上げるのかの選択を行ないます。

助成金の受給を将来考えている場合は、段階的に引上げる方が有利です。

(3) 労使協定の作成

上記1で決定された基準を基に労使協定を締結します。労使協定は、労働者の過半数を代表する者と使用者の署名捺印、作成日、有効期間等があれば、形式は特に定まっていません。なお、この労使協定は、労働基準監督署に届け出る必要はありません。

(4) 労使協議が不調の場合、就業規則で規定

上記1で再雇用者に係る基準に関し、労使協議が調わないときは、大企業は法施行後3年間、中小企業(300人以下)は法施行後5年間「就業規則」で定めることが出来ます。

(5) 雇用契約期間の決定

60歳以降再雇用する場合、有期雇用契約となりますが、その雇用期間を決定します。

60歳以降は、労働意欲、能力が急激に落ちたり、健康状態が悪化する場合も考えられます。有期契約期間は毎年上記1の再雇用の基準をみたしているかを確認して再雇用した方が良いので、雇用契約期間は「1年間」の契約を反復更新することが望ましいでしょう。


(6) 就業規則の定年に関する条文の変更

上記1で定めた基準に従い、就業規則の定年に関する条文を一部変更します。定年年齢は60歳で変更しません。上記2で定めた再雇用の上限年齢を記入します。さらに、60歳以降は、上記5で定めた1年間の有期雇用契約の反復更新になる旨を記入します。

(7) 再雇用規程の作成・変更

継続雇用の基準及び継続雇用する最大年齢が決定すれば、再雇用者を対象とする就業規則である「再雇用規程」(又は嘱託規程)を作成します。これは、再雇用者の場合、通常の正社員とは異なる労働条件で働くことになるため、通常の社員とは別の働くためのルール・労働条件等を決める必要があるからです。

再雇用規程が既にある企業の場合は、1で決定した基準に基づき、再雇用の対象者となる基準を変更します。

(8)   安全で快適な職場環境の整備

高齢者になると一般的に、視力・聴力・体力が衰えたり、外部環境への適応能力が相対的に低下していることが多い様です。

一方、使用者側には、労働者に安全で快適な職場環境を提供する義務があります。これを「安全配慮義務」といいます。「安全配慮義務」に違反し、事故が発生し、使用者側に責任がある場合は、高額の賠償請求をされることがあります。

従って、経営者は、高齢者に配慮した安全で快適な職場作りを行うことが必要になってきます。特に工場等は労働事故発生率が高いので注意が必要です。

また、定期健康診断(人間ドック)の受診と異常があった場合は再検査を受診させること、病気が発見された場合は治療を受けさせることを励行することが大切です。また、病気の内容によっては配置転換も必要な場合があります。

(9)適職配置、職務再設計、再教育

高年齢者の場合、個人毎に健康、意欲、能力、履歴等が異なります。こうした高年齢者を60歳以降も活用する場合には、次のような適職配置・職務再設計・再教育が欠かせません。

・高齢者一人ひとりのキャリア・技能を見直し、適職に配置する。

・仕事の内容や進め方を見直し、高齢者に適した職務を生み出す。これを職務再設計といいます。

 高年齢者の再教育を行ない、新しい職務に対する適応能力を高めます。

(10)最適賃金の設計

60歳以降も厚生年金保険の強制被保険者となった場合(フルタイムかフルタイムに近い形で働く場合)、高年齢雇用継続給付及び在職老齢年金制度をうまく活用し、会社の人件費負担を大きく抑制し、かつ、本人の手取額をそれほど下げない方法(これを高齢者の最適賃金の設計といいます)で、賃金を決定することが大切です。仕事内容等から判断して「最適賃金」より多くの金額を支給したい場合は工夫が必要です。給与の形で支給すると従業員の手取額が減少します。

60歳代前半(60歳〜64歳)の最適賃金設計

【事例】
昭和20年4月2日生まれ、59歳時月給34万円、賞与年額90万円の従業員の60歳時の賃金を20万円、賞与を年額36万円(特別支給の老齢厚生年金月額報酬比例部分10万円と想定)とすると、次のようになります。(60歳〜61歳、住民税は省略、所得税は概算、賞与支給月6月及び12月)

59歳時 60歳時
月給 340,000 200,000
在職老齢年金(平均値) 55,500
高年齢雇用継続給付額 30,000
収入額(月額) 340,000 285,500
所得税控除額 10,390 3,590
社会保険料控除額 41,871 24,651
月収手取収入額 287,739 257,259
賞与額(年額) 900,000 360,000
所得税控除額(年額) 47,350 18,936
社会保険料控除額(年額) 110,898 44,359
賞与手取額(年額) 741,752 296,705
合計手取額(年額) 4,194,620 3,383,813
会社負担額 5,635,968 3,123,547

上記の通り、60歳時以降、月給及び賞与を引き下げると、会社負担額としては、2,512,421円(45%)経費削減出来ますが、本人の手取額は、810,807円(19%)の減少にとどまります

上記事例はあくまでも一つの事例です。一つの目安としてみて下さい。個々の従業員の給与をいくらに設定すれば、会社の人件費負担額が最小になり、本人の手取額が最大になるかは、従業員個人の特別支給の老齢厚生年金の受給予定額や高年齢雇用継続給付金の額により異なります。

(11)賃金制度の見直し

60歳以降の高年齢者を継続雇用すると、新卒・中途採用等の採用を抑制しない限り、賃金原資が増大します。

特に年功を重視する賃金制度をとっている会社では、勤続年数が増えれば賃金が増加します。右肩上がりの成長が見込まれる経済下にあっては、年功を重視する賃金制度も売上の増大で吸収が可能でしたが、現在のような売上の増大があまり期待出来ない状態では、この賃金制度を維持するのは、難しいといえます。

そこで、企業の実情に即して、次のいずれかの賃金制度の見直しを図ります。

@従来の年功重視の「職能給」の場合は、賃金カーブのピークを40歳前後に設定するように変更します。40歳以降は本人の実力次第で、昇給・降給・現状維持となります。

A従来の「職能給」から「職務給」に賃金制度を抜本的に見直します。

B従来の「職能給」に成果主義を一部導入した賃金制度に見直します。

いずれの賃金制度を採用するにしても、賃金には従業員の生活がかかっていますので、慎重に進め、従業員側の同意を得る必要があります。また、従業員のモチベーションが下がらないように、経過措置を設け、急激な変化を避ける必要があります。

■ 賃金制度見直しの手順

@新賃金制度の設計(基本給の見直し)

A諸手当の見直し

B現在いる個々の従業員に当てはめた場合のシミュレーション

C経過措置の導入

D従業員に対する説明会の実施

E賃金規程の変更及び労働基準監督署への届出。

(12)退職金制度の見直し

■ 現行退職金制度の問題点

@退職金制度の多くが基本給連動型となっています。支給退職金=退職時の基本給×勤続年数係数×退職事由別係数(自己都合か会社都合かの別) これは、年功型退職金制度の典型であり、会社への貢献度に係らず多額の退職金が支払われる点、退職時点にならないと正確な退職金が計算出来ない点など多くの問題点があります。賃金が年功を重視しない時代にあって、年功型の退職金制度を残しておくことは、企業経営上大きな問題点です。

A中小企業では、社員の移動も多く、勤続年数は短かったため、いままでは退職金の支払いもそれほど負担ではありませんでした。しかし、景気が低迷する中での転職意欲の低下により、勤続は長期化し、定年で退職するケースが多くなると、それに見合った準備や対策が必要となります。勤続年数係数は勤続年数が長くなるに従い急激に大きくなるため、支払う退職金の額も多額となります

B適格退職年金などの外部積立で退職金の準備をしている場合、運用環境の悪化から積立不足が発生し、企業が埋め合わせしなければならない債務が存在します。

C退職金の既得権は保護されるので、勤続年数の長い社員がいる会社で現状を放置しておくと、毎日大きな退職金債務が積みあがっています。こうした企業の場合、いますぐ退職金制度の見直しが必要です。問題を先送りしているとそのツケは、より大きなものとなり、企業経営を圧迫します。

D退職金制度のある会社で、勤続年数の長い50代の社員が多い企業では、退職金倒産も十分ありえる話です。退職給付債務は、中小企業の場合、目に見えない大きな負債であることを認識する必要があります。

■ 退職金制度の見直しのポイント

退職金制度を見直す場合、次の3つのポイントがあります。

@退職金制度の必要性

A退職金の計算方法(退職金規程)

B退職金の資金準備方法(ファンド)

@退職金制度の必要性

そもそも長期的に雇用定着率を高める手段として退職金制度は現在でも必要でしょうか最近、退職金を廃止し、退職金分を前払いする企業が増えています。雇用の流動化が背景にあるようです。退職金分を毎月の給与や賞与に上乗せして支払います。積立不足の問題は発生しませんが、税金、社会保険料の負担の問題が発生します。
この問題を解決するには、前払い分を現金で支払うのではなく、
日本版401kを導入すれば解決します。日本版401kの拠出金は非課税で社会保険料の対象にもなりません。また、60歳になって一時金で支給を受けると、退職金に対する減税措置をまるごと享受することができますが、原則として60歳にならないと支給されないのが難点です。(日本版401kは退職金というよりは、公的年金を補完する企業年金、個人年金ということが出来ます。

・一方で退職金制度を設けるメリットも次のように考えられます。

イ、優秀な人材を採用しようとする場合、有利な手段となる。
ロ、経営を縮小する時、整理解雇が必要となるが、退職金があると整理解雇を進め易い。
ハ、中小企業の場合、経営が不安定で清算する必要が出てくる場合も考えれるが、この際に退職金があると、従業員を解雇し易い。

結局、退職金制度を見直しを行ない、「続ける(新設する)」か「廃止ずる(新設しない)」かは、経営者の考え方により異なってくることになります。


A退職金の計算方法(退職金規程)の見直し

退職金制度を続ける場合、退職金の計算方法として、次の中から適当なものを選択します。

基本給連動型(上記説明の通り、年功重視で企業貢献が反映されていない点、退職時でないと債務が確定しない点で、現在では適当とは言えません。)

定額制(あらかじめ勤続年数により支払額が確定している点は評価出来ますが、勤続年数重視で企業貢献を反映されていない点で、現在では適当とは言えません。)

別テーブル制 退職金=退職金の算定基礎額×勤続年数係数×退職事由係数

ポイント制 退職金=(勤続ポイント+職能ポイント)の累積点×退職金単価×退職事由係数

 上記4つの退職金額計算方法のうち、定額制、別テーブル制、ポイント制はベースアップによる退職金の増額を防ぐ点で有効ですが、ポイント制が会社への貢献度を反映し合理的と考えられます。

B退職金の資金準方法

退職金の計算方法が決まれば、次にその退職金の資金準備方法を考えます。退職金の資金準備方法には次のような方法があります。

中小企業退職金共済制度(中退共)

特定退職金共済制度(特退共)

生命保険会社の福利厚生プラン

※中退共、特退共、生命保険のメリット・デメリットを考えてみます。

メリット等 中退共 特退共 生命保険(福利厚生プラン)
メリット ・仕組みが分かり易い。
・新規加入・増額の際に助成金が受取れる。
・損金算入できる。
・加入できる企業の規模による制限はない。
・仕組みが分かり易い
・損金算入できる。
・加入できる企業の規模による制限はない。
・制度が柔軟で、自由な設計が出来る。
・資金繰り上必要な場合に資金を借りることができる。
・経営者から退職者に直接退職金として手渡すことができる。
・在職中に死亡した場合に死亡退職金として活用できる。
・2分の1損金算入できる。
デメリット ・加入できる企業の規模による制限がある。
・制度が一律で自由度に欠ける。
・経営者から退職者に直接退職金を手渡すことができない。
・掛金は最高30,000円である。
・制度が一律で自由度に欠ける。
・経営者から退職者に直接退職金を手渡すことができない。
・掛金は最高30,000円である。
・死亡補償が含まれるので、掛金が高い。
・原則全員加入である。


■ 中退共と生命保険、特退共と生命保険を組み合わせ、自己都合と会社都合による退職金支給額の区別に対応する設計も可能です。

■ 生命保険で退職金の資金を準備する場合、福利厚生プランのほかに長期傷害保険、逓増定期保険、長期平準保険等で準備することも考えられます。

■ 下記の企業年金からの支給も考えられますが、いずれも支給原因が老齢(60歳以上)となっているので、退職金のファンドとしては適当でないと考えられます。

日本版401k(確定拠出年金)

確定給付企業年金(規約型)

■ 退職金制度の見直しの手順

@今いる社員が定年まで働き続けると仮定した場合、どのくらいの退職金になるか試算します。さらにこれを年度ごとにまとめ、いつどのくらいの退職金が必要なのか、このうちどれだけ外部積立、内部積立等で資金手当ができているのかを試算します。(現状分析

A現行の退職金制度は基本給連動型のところが多いですが、この方式ですと年功を重視するので、多額の退職金を準備する必要があります。

B適格年金で退職金を準備している場合、現在の資産運用状況を考えますと当初設計した5.5%に満たないため、多額の積立不足が発生していると考えられます。

C適格年金の決算報告書上積立不足が少ないようにみえても、それは5.5%で将来も運用されることを前提としているためで、今の環境ではとても無理な数字です。実際の積立不足はかなり深刻です。
 
D従って、退職金制度の見直しは、企業が現実に掛金を負担出来る水準まで、給付水準を下げる必要があります。

E今後の退職金制度のあり方を必要性を含め、検討します。

F新退職金制度の設計及びその資金準備を考えます。

G新制度が給付水準の引下げとなる場合は、労働条件の不利益変更となりますので、既存従業員に対する補償案を検討します。

H従業員への説明会を実施したり、個別に説明し、従業員全員の同意を得て、最終決定します。

I退職金規程の変更及び届出、退職金の資金手当のため、金融機関等と契約を締結します。

※賃金制度、退職金制度の見直しで不利益な変更が生じた場合、65歳定年が完全に義務化される前であれば、定年延長という代替措置の導入で、民事上有効と判断され易くなります。その他、不利益変更となる場合には、変更を行う合理的な理由、労働組合または労働者代表者と協議をつくすことなどが必要です。

(13)助成金の申請

継続雇用定着促進助成金」の受給要件を満たすかどうか確認します。

継続雇用定着促進助成金」の受給要件を満たす場合は、忘れずに申請しましょう。但し、助成金の受給を受ける場合は、希望者全員を65歳まで継続雇用することが必要です。


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