雇用リスク

企業経営は、「人、物、金、情報」を活用して利益を上げることと考えます。
「人」をうまく活用し利益を上げることが大切ですが、一方で人を雇うことに
伴いリスク(雇用リスク)が発生し、利益に影響を与えます。
社会保険労務士の立場から見た雇用リスクについて説明します。


(1)社会保険未加入リスク


(1)起業したばかりで、資金繰りに余裕がない場合、労働保険(労災保険、雇用保険)、社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金保険)に未加入の強制適用事業所の場合や既存の強制適用事業所が営業を継続しながら、社会保険を脱退した場合。


@健康保険の給付


健康保険では、傷病手当金、出産手当金が支払われますが、国民健康保険の場合には支払われません。この場合、従業員より傷病手当金、出産手当金の請求が事業主に請求される可能性があります。


A厚生年金保険の給付


・1級〜3級の障害厚生年金に該当する障害状態になった場合、本来なら障害厚生年金が支給されます。年金ですから、平均余命まで生きたと想定し、金額を積算しそれを現在価値に置き換え一時金で事業主に対して損害賠償請求される可能性があります。平均標準報酬額にもよるでしょうが莫大な金額となる可能性があります。


・従業員が死亡し、遺族年金が本来なら支払われたケースの場合も、年金ですから、遺族が平均余命まで生存したものと仮定し、金額を積算しそれを現在価値に置き換え一時金で事業主に対して損害賠償請求される可能性があります。平均標準報酬額にもよるでしょうが莫大な金額となる可能性があります。


・老齢厚生年金が支給される年齢に達し、本来なら老齢厚生年金が支給されたケースの場合も、年金ですから、本人が平均余命まで生存したものと仮定し、金額を積算しそれを現在価値に置き換え一時金で事業主に対して損害賠償請求される可能性があります。平均標準報酬額にもよるでしょうが莫大な金額となる可能性があります。



B雇用保険の給付


基本手当だけとっても、失業した場合で支給条件を満たす場合、本来基本手当等として支給を受けられる金額が、事業主に請求される可能性があります。


C労災保険


労災事故が発生した場合、事業主が故意又は重大な過失により労災保険に加入していない期間に発生した業務上の事故について保険給付を行った場合、給付額の100%を支給の都度、都道府県労働局長から徴収されます。


社会保険強制適用事業所は社会保険に加入する義務があります。適用となる従業員の社会保険料負担分を徴収し、自己の負担分と合わせ、期限内に保険料を納付する義務があります。強制適用事業所が、社会保険未加入の場合、行政罰として、懲役や罰金が科されますが、怖いのは、従業員から債務不履行で上記のような民事上の損害賠償請求で訴えられた場合です。


(2)アルバイト・パートタイマーを雇用しており、それら者の労働時間。労働日数が、当初から社会保険の加入条件(1日又は1週間の労働時間が正社員の概ね3/4以上であること及び1ヶ月の労働日数が正社員の概ね3/4以上であること)を超えるにも係らず社会保険に未加入の場合。また、当初は、社会保険の加入条件を満たさない労働時間・労働日数で契約したが、恒常的な時間外労働のためため、結果的に社会保険の加入条件を満たすようになったにも係らず社会保険に未加入の場合。



社会保険料の遡及徴収及び老齢厚生年金の返還


この場合、会計検査院の調査が入ると最大過去2年間に遡って、社会保険料が徴収されます。従業員負担分も含めて徴収されますので、数千万円以上になることがあります。また。高齢者で老齢厚生年金を受給していた者は在職老齢年金が支給されることになり、年金の支給額は全額又は一部支給停止となります。従って、既に受給していた分と在職老齢年金との差額を返還しなければなりません。この返還した額を使用者が補填するとなると数百万円以上になることがあります。


(2)安全配慮義務で訴えれるリスク


長時間労働によるうつ病での自殺、心臓疾患による過労死その他事業場の設備の欠陥による労災事故等が発生すれば、労災保険からの給付だけで済むことはありません。職場の安全配慮義務(健康配慮義務)違反を根拠に遺族から民事上の損害賠償請求をされ、1億円を超える賠償金の支払を命ずる判決、和解契約も珍しいことではなくなりました。中小企業なら企業存続の危機に陥ることでしょう。


裁判等で訴えられた時に敗訴した場合、金銭的な負担も大変ですが、裁判は公開で行われるため、企業イメージがマイナスとなり、企業の売上にも影響が出てくる可能性が心配です。



(3)解雇・雇止めのリスク


(1)就業規則に該当するから解雇しても大丈夫だろうと解雇するのは危険です。解雇を有効とするには、就業規則の解雇事由に該当するだけでは不十分で、社会通念上、解雇が妥当と判断される必要があります。(高知放送事件、最高裁昭和52年1月31日判決)


(2)パート・アルバイト等の「有期雇用契約」社員の場合、契約期間が満了したので、雇止め(契約の更新をしないこと)にした場合、雇止めが無効となる場合がありますので、注意が必要でです。「有期雇用契約」の場合でも、契約更新を繰り返し、「期間の定めのない雇用契約」と同様と見做され、その雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示にあたり、その判断にあたっては、解雇に関する法理を類推適用すべきであるとされた判例があります。(東芝柳町工場事件、最高裁昭和49年7月22日判決)



(4)退職金制度を設けるリスク


退職金制度を設けるかどうかは、企業の自由です。実際、日本の企業のうち、退職金制度を有する企業は、企業全体の約90%です。従来、退職金制度を設けていた企業の多くは、人材の定着率を高めることが目的でした。現在、多くの企業では、基本給連動型と呼ばれる退職金制度を導入しています。これは、経済が右肩上がりで勤続と生産性向上が正比例していた時代の名残です。現在のように、技術が高度化し、人材が流動化している時代にはマッチしている制度とはいえません。


また、基本給連動型は、勤続年数を重視しており、賃金制度が成果主義に傾きつつある現代には合わない制度と考えられます。さらに、退職金制度を設け、退職金規程を労働基準監督署に提出してしまうと、労働者から見れば、労働債権、企業からみれば、労働債務となり、退職金規程を廃止しない限り、この労働債務は無くなりません。退職金規程を廃止するのは、労働条件の不利益変更に当たるため、合理的な理由等がない限り認められません。


勤続年数が長く、賃金の高い従業員が多くいる企業の場合、退職者が一度に出るとその負担に耐えることが出来るかどうか心配です。その危惧が、2007年以降の「団塊の世代」の退職をむかえ、表面化してきました。


(5)戦力とならない社員を雇用するリスク


人を採用する場合、選考試験を行ないます。正社員の場合なら、筆記試験、適性試験、論文試験、面接試験(1次〜3次)、パートタイマーなら面接試験等を行うのが普通です。これらの試験をクリアして、この人物なら大丈夫と採用したところ、入社後の仕事振りが期待したものとかけ離れていたり、遅刻、欠勤を繰り返すといった問題行動をとったり、まわりの社員と協調性のない社員、パートタイマーがいます。


一旦こうした問題社員の雇用してしまうと解雇するには、相当な努力が必要です。すなわち、その解雇が合理的で社会的妥当性がないと、解雇権の濫用で解雇は無効と判断されます。


※社員は、経営者、役員、管理職の失言、脅迫、違法な発言があった場合、常にICレコーダー、ボイスレコーダーで録音していると考えて下さい。それを証拠として、補償金の交渉材料にしようとしています。労務管理は合法的に処理しないと結局高くつきます。ご相談は労務管理の専門家の社労士までご相談下さい。





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