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トゥガーリ(1)

 イッカクのオスが持つ長い牙、それをイヌイット語ではtugalikという。いくつかの資料を見るとアルファベット表記ではそうなっている。だからそれをそのままカタカナに直せばトゥガリックとなる。でもイヌイットが発音するのを聞いていると少し違って聞こえる。語尾の発音は小さくて、「ック」はまず聞こえず、「リ」もかすかだ。だから聞こえる音をたよりにすると、それはトゥガーリもしくはトゥガーとなる。
 一方、本体のイッカクは何と呼ばれているかというとqilalugaqだ。これも最後の「……ク」はまず聞こえないから、カタカナ表記するとキラルーガとなるだろう。
 キラルーガとトゥガーリ。この二つの単語さえ知っていれば、イヌイットのイッカク狩りについていったときにも大事な場面はすぐにわかるはずだ。イッカクがあらわれれば「キラルーガ、○×△□……!」という発見者の叫び声の意味がわかるだろうし、それが牙を持ったオスであれば「トゥガーリ、□○×△……」と誰かがつぶやくのに気がつくはずだ。
 おもしろい資料がある。イヌイット語のクジラをさす単語の地方による違いについてだ。ポンドインレット村のある北バフィン島地域において、イッカクはキラルーガと呼ばれている。しかし、他の地域においてはベルーガ(シロイルカ)がキラルーガと呼ばれており、イッカクの方はトゥガーリと呼ばれているのだという。*
 どうやらキラルーガとは、もともとクジラ全般をさす言葉らしい。だからその地域で最もポピュラーなクジラに対してキラルーガという名があてらるわけで、ほとんどの地域では数的に多いだろうベルーガがキラルーガと呼ばれている。イッカクには牙を意味するトゥガーリがあてられているのだから、牙を持ったクジラ、という意味合いなのだろう。一方、北バフィン島地域にはベルーガよりもむしろイッカクの方が多い。そこでイッカクをキラルーガと呼ぶようになった。このエリアではクジラとはイッカクのことなのだ……と僕は想像している。

*カナダ北西準州発行のパンフレット「WHALES of the Northwest Territories」より

Copyright © 2004 Mamoru Yasuda