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うずくまるという隠れ方

 ツンドラを歩く僕に向かい、シロハラトウゾクカモメがさかんに威嚇のダイビングをくりかえす。近くに彼らの巣があるかヒナがいるにちがいない。そう確信して地面を見ながら歩くがそれらしきものは見つからなかった。
 5分、10分と眼を皿のようにして歩き回ったが、それでも見つからない。2羽のトウゾクカモメはずっと僕の近くを飛び、声をあげ、しばしばダイビングをくりかえしている。そのうちその威嚇にも強弱の差があることに気がついた。ある地点に近づいたときに、とりわけ近づいてくる。
 そのとき、ふと目の前にあったホッキョクヤナギの低い茂みと草の間を見たら、そこにいた。ハトくらいもある大きなヒナが一羽うずくまっていた。ふ化してからしばらくたっているのだろう、うぶ毛にちゃんとした羽根が生え始めている。
 それにしてもうまく隠れたものだ。いや隠れているという感じでもない。ヒナは何も心配ごとなどないとでもいうように、涼しい顔をしている。全身がまだらな褐色であって、ただツンドラのコケと草の間にうずくまっているだけで、かなりの隠蔽効果がある。現にこのあたりにいるはずと確信していても、実際に見つけるまではかなりの時間がかかった。
 ここはツンドラ。高さのない世界。大きな影になってくれるものはない。ちょっとした岩や高さ30センチほどのホッキョクヤナギがでっぱっているだけだ。ジッとうずくまって動かないことが、もっともシンプルで効果的な隠れ方なのかもしれない。

Copyright © 2004 Mamoru Yasuda