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氷の行方

 7月末、カナダ北極圏にあるポンド・インレット村へとやってきた。気がつけば僕にとってもう3回目のイッカクへの旅になっている。

 昨年もほぼ同じ時期に北極入りしたのだけれど、そのときにはすでに海峡の氷はきれいに去り水面だけが広がっていた。今年は氷のブレイクアップの様子を見たかったので、昨年よりも早めにやってきた。氷はまだ居座っている。
 氷が割れればイッカクの群れがやってくる。彼らはずっと南の氷のない海域で冬の間を過ごしていたのだ。南といってもそれほど南下してしまうわけではない。冬の間のイッカクの生息域についてはどうやらまだハッキリとはわかっていないようだけれど、断片的な情報によれば、そのほとんどは北極圏内ですごしているらしい。どこまでも氷と関係をむすんでいるクジラなのだ。夏に向かって海の氷がとけるにしたがい、デイビス海峡を北上し、そこから西へとつづくランカスター海峡へ、一部はさらに北の海域へ、そしてそれよりも一つ南に位置するポンドインレット、エクリプス海峡へ。イッカクは短い夏を北極海のあちこちにある海峡や入り江で過ごすためにやってくる。イヌイットたちにとってはイッカク狩りシーズンの始まり。僕のイッカクに出会う旅もそこから始まる。
 ……はずだった。この調子なら数日のうちにあけるだろう、そんなつもりではじめはのんびり待っていたのだが、氷は一向に消え去ってくれない。数日どころか1週間たってもまだ開けない。さすがにジリジリしてくる。もちろんそれは融けはじめている。氷のほとんどはすでにたくさんの破片にばらけてきているのだが、それが行ったり来たりでなかなか去っていかない。大きな水面が広がり、いよいよかと期待して次の日に海をながめれば、また氷で埋まっているという具合だった。

 不思議に思うことがある。氷はブレイクアップした後どこに行ってしまうのだろうか、ということだ。
 氷がとけるとはいってもその量は半端ではない。この時期の気温はプラス数度、暑い日で10度といったあたりであって、いくら何でも大量の氷を一気にとかすほどではない。毎日行ったり来たりする氷を見ながら考えたのは、海流か風によって流れ去ってしまうのだろうということくらいだった。しかし、ではどこへ?と思う。海峡をおおいつくしていただけの氷だ。そんな大量の氷の行き着く先というのはいったいどこなのだろう。

Copyright © 2004 Mamoru Yasuda