俊樹の部屋(?)

俊樹の部屋(第30回)


(04.4.5アップデイト)

1996年5月30日、歴史は始まりました。ついに布川俊樹のホームページがスタートしたのです。このページを立ち上げた4、5月はギターを弾くよりとにかくこのホームページ製作に追われる日々、日夜Macに向かっておりました。この「俊樹の部屋」は毎回僕がたわいもないことをエッセイ的に書き連ねたり、「徹子の部屋」みたいにゲストを呼んで対談をする、みたいなコーナーであります。

さて今回は記念すべき「俊樹の部屋第30回」であります。対談のお相手は2回目の登場、いま僕が最も信頼する方です。日本のジャズ界(あるいはジャズ界にとどまらないと言うべきか!)に風穴を開けるインディーズ「しおさい」を率いる若き経営者、プロデューサーである石原忍さんをお迎えしてお送りいたします。まだマスタリング前で完全に完成は見ていませんが、取りあえずレコーディングとミックスは2/11,12の何と2日間で終えてしまいました。新鮮な感覚の残る中でのオンライン対談です(なお「しおさい」のホームページにもレコーディング・レポートがありますので、そちらも合わせてご覧ください)。ちなみに録音楽曲と使用楽器(アンプはすべてフェンダーサイバーツイン)は以下(順不同。曲順はまだ未定、曲タイトルは仮です)。



布川:
ついにかねてからの目標であった「トリオレコーディング」を初めてやれました。どうもありがとうございます。自分の口からレコーディングの多くを語るのも何なので(笑)、プロデューサーあるいは社長、あるいは歯医者(笑)としての今回のレコーディングの感想を聞かせてください。どんな感じでしたかねえ?かなり面白かったですよね。
石原:
近年の布川さんにとって一つの目標であったギタートリオ作品は私(プロデューサー的な側面)から見てもやはり「布川さんはこのタイミングで是非トリオ作品を作るべき」と思っていました。このタイミングというのはもちろんVALIS解散後の第一弾、つまり布川俊樹の第2章の始まりという“区切り”としての意味は大きいです。ただそれ以上にVALISの最後の2枚のライブアルバムやVALIS解散ライブなどでの布川さんの演奏を聴いてこれまで以上に布川さんのインプロバイザーとしての資質が表出しているように思えたんです。それはむしろグループという拡大した形よりギリギリそぎ落としたトリオ形態の方が伝わりやすいだろうとも。

それは出来上がった音を聴いてみると大正解であったと思います。あの美しさと緊張感が張りつめた空気感はホントに素晴らしいと思います。

布川:
いやあ、その触媒は何と言っても山木さんでしょう。山木巨匠との録音は本当に楽しかった。レコーディング、スムースに行きましたしねえ。9曲11テイク。僕もLAレコーディング以来、「ウルトラマンジャズ」の2ch一発録り、VALISライブレコーディングと、そういうので鍛えられてきたのがよかったですよ。いいときに今回のレコーディングができたと思ってます。最近は僕も何度もやろうって言わないんだけど、とにかく山木さんは「そのときに出たものをそのままに」って感じでしたね。「絶対何回もやらないよ。多くても2回」って石原君から聞いてじゃない?まさにそう、男気を感じましたよ(笑)。もうテイクが終わると「いやあ最高最高(笑)」とか言ってるから、ちょっと間違えたくらいだと絶対「もう1回」って雰囲気はなくなる(笑)。もう、ずれてるのもいいみたいなね(笑)。それと何と言っても彼は1ドラマーではあるけど、アーティストって感じ、佇まいがあります。そこが尊敬しちゃうところですね。
石原:
今回はレコーディングの前の週に1日のリハーサルを経てライブをやれた事も大きな意味があったと思います。録音はほぼすべて1テイクであってもありがちな「ちょっと軽くセッションしてみました」という音になっていないのはそういう流れもあってのことですね。あのライブ自体も細かな点はいろいろありましたが全体のイメージとしては“鮮烈”とも表現できるものでした。布川さんの普段と少し違った熱いギタリストぶりが結構心にグッときましたね。3人ともその雰囲気をうまくレコーディングに繋げて集中力を発揮できる感じで演奏していたと思います。

今回に限らず山木さんは特に集中力というか、その時々の演奏への入り込み方のレベルが何か普通の人と違うんですよね。あと音楽の捉え方が狭くない。キメをいかに合わせるとか、技巧的に凄い事やってみようとか、そういう「凄い」って事の他にも様々な音楽的価値は存在するのだと、その面白さにアプローチしたいという行き方をあの人は持っていますね。布川さんも感じたようにドラマーというよりアーティストって感じですね。

布川:
僕は今回のレコーディングで、相当、山木秀夫という人と自分が合っているなと感じました。演奏に対する集中の感じと、全体の音楽の作り方、あとはタイムの感じとか。しかし、ほんとにドラムの音が綺麗だと思いましたね。「Dreaming Beauty」とかグッと来ちゃうよなあ。それに「Spice Freak」みたいなファンクジャズロックみたいな曲での、あのドロッとした謎な雰囲気。かっこいいです。なかなか僕ら以降の世代にはあまりああいう雰囲気はないですよね。60年代を知ってるみたいな‥‥。と言うか、山木さんはワンアンドオンリーっていうことにつきるのかもしれないけど。
石原:
山木さんも「布川とはなんか波長が合うと言うか面白い感じになるね。それはお互い偶然な部分も多いんだけどね。」と言っていましたよ。「布川のギター、謎な部分も多くて面白いよ。人間性が出てる感じだよね・笑」、「あとギターの音が素晴らしい。」とも。そういう感想も布川さんと視点が似ていますよね。  
布川:
それは嬉しいなあ‥。どういう人間性なんだろう(笑)?ギタートリオって言えばね、長年ライブではやっていたわけですよ。それでたいていはドラムは大坂昌彦君だったのね。たまにたっぴー(岩瀬立飛)とか。それでそのサウンドにはもちろん慣れていて、もちろん大坂君は素晴らしくてすごく音楽的でやりやすいドラマーなんだけど、何か今回新しい刺激ということで、石原君から「山木さんではどうか」って話が出た。それでちょっと僕も興奮しちゃって「是非に」みたいなことになった。山木さんに決まってから、レコーディングしようっていう楽曲とかずいぶん変わりました。大坂君だとやっぱりストレートにいわゆるモダンジャズらしいって気分になっちゃうのね。スタンダード曲もやったかもしれないし、4ビートスイングっていうのがとにかく中心になったと思う。山木さんってかなりぶっ飛んだ感じじゃないですか(笑)。だから何か変なこともやりたいとは思いました。とにかくドラマーによるサウンドの変化は大きかったですね。あと山木さんは僕くらいの世代にとっては何と言っても学生時代のアイドルでしたからねえ。そういうこともあって人間関係にも緊張感出るし‥。でも山木さん、レコーディングのときナイスでしたねえ(人間的に)。
石原:
実際shiosaiでレコーディングしようと決まって具体的に考え始めると私としては単に4ビートでモダンジャズな雰囲気でやってみましたという渋い作品にしたくないという思いがありました。で、近年公私共に面倒を見て頂き、また私も何枚かのアルバムを一緒に作ってきた山木秀夫さんにドラムをお願いしようというアイディアが浮かんだわけです。

山木さんはそれこそその長いキャリアの中であらゆるジャンルの第一線でドラムを叩いてきたわけですが、かといって彼はロックドラマーにもスタジオミュージシャン、ジャズドラマー、ましてやフュージョンドラマーにも分類されません。少なくともJazzにおいてでもファーストコールでありながら決して「ジャズドラマー」ではないという存在。予定調和な“所謂ジャズ”には絶対に付きあってはくれない山木さんのドラムを土台にしてトリオでやれたら自然と新たな布川さんのギターの魅力が引き出された作品になるという確信はありましたね。

布川:
そうね、いつもと同じ様なフレーズとか弾いてても何か違うように聞こえたりとかね。
石原:
4ビートスイング的なノリの作品は海外のアーティストでも凄く得意な人がいっぱいいますし、少なくともshiosaiでそういう作品を作る必要はないと思っているんです。山木さんが以前「僕等は日本人なんだから日本人のビート感覚を大事にして僕は僕だけのアプローチを続けて行きたいんだよ。」と言っていましたが、shiosaiで作る音楽もそういうものでありたいと思っています。
布川:
うーん、それはためになる言葉だなあ。あと納ちゃんもいい感じに演奏してくれたよね。まあ彼とはホントにたぶん何百回も演奏していて、僕の携帯みたいにツーカーな(失礼)プレイヤーなんだけど、今回は演奏に燃えている感じが出てたなあ。彼は結構、何度もしぶとく演奏して詰めて行くタイプの人だと思うんだけど、今回はレコーディングの雰囲気を察知して相当1回めの演奏に賭ける感じが出ていたと思う(笑)。
石原:
納さんの演奏は何度も観ていますが今回はいつも以上にホント熱い演奏でしたね。ああいった納さんの演奏は少なくともレコーディングではあまりなかったのではないかと思います。ベースの音色もブンブンいっててカッコイイし。納さんからも先日メールが来て彼もとても喜んでくれていましたよ。

あと、布川さんのギターの音。ギターの音色と言う意味ではもう正真正銘のジャズギターという感じで素晴らしいと思いました。以前のピーターソンもきれいな音していましたけどね。でも今回のはもっと太くてふくよかな感じですね。

布川:
今回はアンプは全曲、フェンダーサイバーツイン。買って2年半くらいにはなるんだけど、ようやく今回で使いこなした感じがしたかな(笑)。デジタルアンプだけど、ウォームでいい音だったなあ(自画自賛モード‥笑)?実は今回のレコーディング前2週間くらい、山じゃないけど(笑)大学の部屋に籠もってかなりアンプとかの音作りしたんですよ。ここまで根を詰めてそういうことをやったのは、もう10年振りくらい。ギターはいつものアーガスのセミアコでのクランチサウンドとクリーントーン。あと3曲がフルアコ(ギブソンES175)でした。このアルバムのギターサウンドが、僕の考えるジャズギターのサウンドと言っていいですよ。
石原:
「In A Silent Way」のアコギダビング以外はまったくダビングもない今回の作品はそれぞれの楽器の音色の素晴らしさが際立ってよく聴こえていると思います。
布川:
いやあ、どうもどうも。収録曲のことも話しましょうか。一応、まだ曲順とか確定してないんだけど、録音したのは9曲。オリジナル8曲+カバーはジョーザビヌルの「In A Silent Way」。彼は僕が最も影響を受けた音楽家の一人。あとやっぱりマイルスの演奏の印象も強いしね、いわゆるジャズスタンダード曲じゃなくてそういう曲をカバーしたかったわけです。オリジナルは4ビートスイングは4曲。あとはジャズロックぽいのとか、ちょっとラテンっぽいのとか、ボサみたいな感じのとかかなあ。何とかな感じとしか言いようがないサウンドですねえ(笑)。山木さんのグルーヴってワンアンドオンリーって感じがするから、とにかく所謂モダンジャズっていう雰囲気にはならない。でも強力にインプロヴィゼーション的に展開してるという面では、いままでの僕の作品の中では最もジャジーって気がしますね。
石原:
「In A Silent Way」はよい選曲だと思いましたね。最近出た「ザビヌル」という本を読んでいますが私も非常に好きなアーティストです。最近来日したのに見に行けなかったのは残念。でも今回この曲の最後がもうジミヘン状態になっているのは面白いですよね。実現しなかったけどマイルスもジミヘンとやりたがっていたでしょう。私は普段ジミヘンやスライ・ストーンとかもジャズを聴くような気持ちで聴いていて、ジャズって私の中ではそういう開放されたイメージに繋がっているんですよね。

この時代になってもジャズというと60年代のモダンジャズを基準にする人が多いですが私は「ジャズ=自由に音楽を演奏する」というような感じにとらえているので、今回、トリオの3人が非常に自由にアプローチしている様子はまさに現在的なジャズ、ジャジーって事であったと思っています。

布川:
それはまさしくそうだ!まあ僕は所謂モダンジャズも好きだし、そんな感じにやるアルバムもいつかやってもいいとは思ってるんだけど、それを保守しようとかは全然思ってないからねえ。それにしても「In A Silent Way」のエンディング部分は笑っちゃった。山木さんがプレイバック聴いてるとき「ジミヘン」とか言ったんだよね。まあフレージングとかよりサウンドの全体像というかエネルギーの感じだと思うんですよ。ワウもあるんだけどさ(笑)。あの曲の演奏のときは山木さんが強力なドラミングでさあ、僕全然自分の音が聞こえなくなっちゃったの(僕は山木さんと同じ広い部屋で演奏してアンプをブースに入れていた)。それで、「全然自分の音は聞こえないけどまあいいか」みたいな感じで取りあえず勢いで弾いちゃったら期せずしてああいう感じに‥(笑)。何かライフタイム(トニーウィリアムズがマクラフリンとやってたバンド)みたいでもある。僕、最近69年あたりのサウンドっていうのがマイブームって言うか何か来ちゃってるのね。全部好きっていうわけじゃないけど、ライフタイムやマイルスの「In A Silent Way」とかドロっとして暴力的でかっこいいところが多いし、いまっぽい感じもある。クラブジャズとかには完全に通じてるところもあるし‥。結構謎な感じが好きなんですよ。

ところで考えてみるとこのアルバム、僕の名を冠したリーダーアルバムとしては10枚めなんですね。昨年VALISを解散して、新たなスタートとしてはホントにいい感じに行きましたよ。

石原:
満足のいく作品になって、それをお手伝いできた事は私も本当にうれしいです。
布川:
それからこれは是非書いておきたいんだけど、エンジニアの松本靖雄さんが強力でしたねえ。とにかくあの仕事のスピードであのクォリティ。ほとんどギターのサウンドとか注文しなかったもんね。ありゃー売れっ子にもなるわ(笑)。
石原:
私はここ最近ずっと松本さんとやっているのですが、天才という言葉がピッタリくる人です。布川さんが満を持してトリオ作品をしおさいでやる話になった時エンジニアは松本さん以外ないと思っていて、私の中ではそれが最初に決まっていました。電気グルーヴ、オリジナルラブ、DMBQ、スーパーカー、ブンブン・サテライツ、砂原良徳、、、(その他渡辺美里、浜崎あゆみetc、、、)彼のキャリアは私がその時々に聴いている音楽に不思議にリンクしているんです。今の音楽シーンで音楽をプロデュースしようと思っているとどうしても優秀なエンジニアは不可欠で職業的に常に意識しているんです。で、車のラジオでかかっている曲で「この曲のMix最高だな」と思って買って聴いて見ると松本さんだったりする事が何度かありました(笑)。それ程際立った存在なんですよ。上記のキャリアでも分りますが彼は所謂ジャズのエンジニアではないんです。ロックやポップス、ハウス、テクノの流れの中にジャズを見ている点で私とも感覚が合っている気がしています。
布川:
ギャラ滅茶苦茶高いところを「そこを何とか」みたいに石原君が‥、そんなことない(笑)?ところでまったく話変わるけど、石原君って30歳にはなってるんだっけ?
石原:
今32歳です。布川さんと会った頃は24歳でしたねー。
布川:
「デュオラマ」(レーベル第1作めの作品)が5年前の旗揚げレコーディングは別荘で録ったよね。いまやビクターのスタジオ(笑)!もうすごい引力でミュージシャンがしおさいには集結してきたからねえ。梁山泊みたいなもんだ‥(笑)。ほんとに尊敬してますよ。やっぱりそれは石原君の人間的魅力によるところが大きいと思うよ、それに賢いし‥、僕との関係ひとつとっても人に言えない部分で合ってるような気もするよなあ(笑)。まあとにかく飲み会は面白いよね。ほとんど仕事のこと、話さなかったりする(笑)。
石原:
布川さんとの飲み会はホント盛り上がりますよねー。この前も仕事の話しようって布川さん、わざわざ伊豆のペンションまで来ているのに(私は普段は伊豆で歯科開業医やってます)別のもっと楽しい話で盛り上がって終わってしまって次の日の昼布川さんから「あの〜、で何でしたっけ?ちょっと仕事の話しに自宅に寄っていいですか〜?」とかTELかかって来てね(笑)。「そういえば肝心な事何にも決まってねーよ!」みたいな。。。(爆笑)
布川:
いやいや(苦笑)。でもホントに正直言って「デュオラマ」作ったときは、こんなに続いてカタログも増えると思わなかったもんなあ‥。それで山木さんや後藤次利さんとかまでレーベルに絡んで来ちゃったからねえ。もうおったまげてますよ(笑)。今後、一体このレーベルはどんな方向に進むんでしょうねえ?
石原:
shiosaiにはありがたい事に素晴らしいアーティストが沢山の優れた作品を残して来てくれました。今回のトリオ作品は29枚目、もしくは30枚目くらいのリリースとなります。その中でも私が誇りに出来るいくつかの作品というのは、やはり人間的に深い関わりを持てた上で取り組めた作品です。私は特に生演奏が主体になる音楽の場合その人自身が人間として持っている魅力が最も大切だと思っています。それこそどんな作品を作るとか、コンセプトやカバー曲どうするとか、何曲入れるとか、そうした細かな打ち合わせすらする事もなく、飲んで話して一緒に遊んでいる中でその人がどんなレベルの作品を産み出す可能性があるのかは分かってきます。山木さんや後藤次利さんとも同様で彼等と制作したアルバムであらかじめ決まっていた事など何もありません。核心部分はお互いにイメージとして心の中で共有しているんですよね。

shiosaiの今後、、、どうなんでしょう(笑)?音楽業界とか、流通とか、そういうシステムとある程度距離をとった形で、でもそうしたシステムに対する挑戦の気持ちも忘れないレーベルであったらという想いは始めた頃とまったく変らず今も思っている事ですが。

布川:
いやあ、話もまとまりましたね。てなわけで、今回はどうもありがとうございました。発売後も何だかんだと盛り上げたいですね。(笑)
石原:
これだけの作品が出来たのですから盛り上げなくては行けませんねー。
布川:
それではまたライブなどで‥。
石原:
また飲み会などで(笑)。

石原さんどうもありがとうございました。ちなみにこちらがレコーディングの絵模様でございます。





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