猪瀬和道の レポート 大連発



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<中国語経済雑誌「東北の窓」2005年1月後半号> (2005年1月20日発行)

※中国語は三上吉彦さんの「私の中国ホームページ」に収録



【編集者(李愛華さん)コメント】
 知っていただろうか、知らなかっただろうか。神秘的な流氷が長い間、大連海域を漂っていたことを……。こんなにも貴重な観光資源が一人の日本人によって発見された。大連人として私たちは、大連市の観光業を思ってくれる外国人の友人に感謝したい。

忘れ去られていた観光資源――大連の流氷


                 文/写真 猪瀬 和道  翻訳 苗 清 (原文は中国語)



 「猪瀬さん、この大連で流氷を見ることができることを知っていましたか。私は流氷を見て驚きましたよ」。私の友人で大連ソフトウェアパーク日本総監の三上吉彦さんからこんな電話をもらったのは、昨年2月14日のことだった。
 いつもは冷静な三上さんだが、受話器から聞こえて来る声は弾んでいた。電話を受けた私も驚いて、その返事は興奮気味だったに違いない。
 「えーっ、本当ですか。大連で流氷が見られるなんて、これまで聞いたことはありませんね」
 流氷――海水が凍り、その氷が割れて海岸部に押し寄せてくる氷の塊のことである。日本では北海道北部のオホーツク海沿岸部で、毎年1月中旬から3月下旬に見られる自然現象だ。大小の流氷が「ギシッ、ギシッ」ときしみ音を上げてぶつかり合い、沿岸部に向かって来る光景は雄大であり、自然の営みの素晴らしさを実感させてくれる。
 そんな流氷をこの大連で見ることができるとは初耳である。私は2002年9月から大連で暮らしているが、中国人、日本人からもそんな話を聞いたことは一度もない。むしろ、大連湾は不凍港であり、それゆえ帝政ロシア、日本がこの大連を侵略し、“北の要塞”として支配下に置いたものと理解していた。それだけに、三上さんからの電話は予想外だった。
 翌日の2月15日、私は流氷を見ることができるという、大連湾の北方の渤海に面した夏家河子へと出かけた。
 大連市内からバスに乗って約45分、旅順北路のさらに北側に広がる渤海へ向かった。進行方向の右手には金州湾が広がり、その海面は白い色に覆われている。よく見ると、三上さんの言う通り、流氷が湾内を埋め尽くしているではないか。そのダイナミックな景色を目にしただけで、気持ちが高揚して来る。「えーっ、こんなにも素晴らしい自然が大連にあるとは……」と、これまで出会ったことのなかった大連の隠れた魅力を知って感動したのである。
 バス終点駅の夏家河子で下車し、さっそく海岸へ下りてみた。浜辺から沖合まで、小さいのは縦横1メートル四方、大きいのは5メートル四方の流氷で埋め尽くされている。厚さ40―50センチの流氷に次から次へと飛び乗って、沖合の最先端部までたどってみた。夏家河子の海は遠浅なので、流氷から足を滑らせて転落しても溺れることはない。せいぜい靴が濡れるぐらいである。
 40分ほどで先端部に着いた。右手からその後方一帯の金州湾には流氷群が広がり、後方には二つの頂をもつ鞍子山がそびえ立っている。足下の流氷を見ると、柔らかな日差しに照らされて、流氷から溶けた水が滴り落ちていた。吹き付ける風は冷たいが、春の訪れを感じさせる大自然の中に身を置くことができたのである。
 しかし、この日訪れていたのは数組のカップルと団体、そして貝採りの地元の人たちだけである。こんなにも素晴らしい観光資源があることを、大連の人たちは知らないのではないか、知っていたとしてもその価値に気づいていないのではないか、そんな想いがこみ上げてきた。
 日本では、流氷を見たり、流氷砕氷船に乗って遊覧を楽しんだりする冬の観光が盛んである。各観光会社が流氷砕氷船の体験乗船や付近の温泉地巡りを組み合わせたツアーを企画。東京や大阪から3日間で約5万円(約3800元)かかるが、多くの人たちが参加する冬季の人気観光ツアーとなっている。また、北海道紋別市には北海道立オホーツク流氷科学センターがあり、「流氷博物館」として大勢の観光客が訪れている。
 流氷は、北方の限られた地方、限られた期間だけしか見ることのできない、特別な観光資源なのだ。夏家河子の流氷もまた、大連に与えられた“自然の贈り物”である。
 大連市は夏季の3S観光キャンペーン――砂浜(SAND)、海(SEA)、太陽(SUN)とともに、冬季の3S観光キャンペーン――温泉(SPRING)、スポーツ(SPORT)、ショッピング(SHOPPING)を企画し、閑散期における観光客の誘致に力を入れている。
 英語で流氷はDRIFT ICEで「S」とはならないが、冬季観光キャンペーンの一企画として組み入れることは可能だろう。流氷の上を自分の足で歩く感動はまた格別だ。大連の魅力を国内外の観光客に知ってもらう観光素材の一つになることに間違いない。

写真は、大連の流氷を紹介した「東北の窓」2005年1月後半号