
鞍子山
(an zi shan=約200m)
(2004年5月1日=晴れ)
▽ガイド 険しさと優しさ備えた本格的な山系
▽交通 大連駅などから出ている中距離バス「夏家河子」行きの終点で下車
▽ルート 夏家河子コースのほか、南麓の由家村からも入山可能
■縦走阻む急峻な頂き
ことの始まりは昨年の秋だった。
「大連山の会」世話役の岡田稔さんと夏家河子へ果物狩りに行った時、私たちはリンゴ畑の背後にそびえる山の姿に引きつけられた。大きなピークが2つあり、稜線あたりは岩盤が露出している。すそ野はなだらかに広がり、果樹園を抱き込んでいる。荒々しさと優しさが同居する雄大な景観。大連の山に魅せられている私たちはすぐさま、「リンゴや桃が花咲く来年春に登ろう」と、半年後の山行を約束した。
そして5月1日、「大連山の会」メンバー10人とともに、再びこの山を訪れたのだった。
大連市中心部から約20キロ北の渤海に面した夏家河子。ここは古くから海水浴場として知られ、海岸の南側に衝立のように連なる山が、「鞍子山」である。山腹にある寺院「安山寺」縁起によると、山名は鞍のような姿から名付けられ、遼南で3番目に高い山だという。最も高いのは歩雲山だろうか、それとも遼南となると大黒山だろうか。判然としないが、「3番目」というところが、いかにも真実味を感じさせ、想像力を高めさせてくれる。
一行を乗せたチャーター小型バスが、集合場所の大連鉄道学院前で出発したのは午前9時10分。大連国際空港南側の迎客路を通り、目指す鞍子山が大きく見えて来た。この日のために、つい数日前、下調べをしてきた、もう一人の会の世話役である三上吉彦さんによると、山塊は大きく分けて4つのピークがあり、東端はラァ子山で、中央の二峰は険しいため、縦走はできないという。
夏家河子に入ってから大連職業技術学院東側を左折し、登山口となる中腹の安山寺に到着したのは午前9時50分。「五一」連休に入ったためか、寺には参拝者や登山者の姿が多い。本殿の前を通り、階段を上って新緑の森に続く登山道を進んだ。デイパックを背負った私たちの外国人グループはかなり目立つようで、参拝者の視線が集り、「ハロー」といった英語も聞こえてくる。
ややきつい登りが続く。グングンと高度を上げ、後ろに夏家河子の海が浮かび上がり、稜線付近には人影が小さく見える。上の方から、「アーッ」と叫ぶ声が聞こえた。日本の「ヤッホー」にあたるが、同行の査栄輝さんは「中国はほとんど“アーッ”よ」と教えてくれた。「アーッ」であろうと、「ヤッホー」であろうと、山に登って大声を発したくなるのは万国共通なのだろう。
登山口から登り始めてわずか10分で稜線に着いた。海から反対側になる南側の景色も見渡せ、視界は一度に広がった。学校らしい施設があるが、三上さんによると、孤児学校やサッカーの少年トレーニング施設だという。小休止してから午前10時25分に再び歩き始めた。尾根伝いは岩場になっていて注意しながら進む。左手上空にはタカ2羽が舞っている。識別できず。
頂上に着いたのは午前10時45分。遠くはやや霞んでいるものの、青空が広がり、金州から旅順にかけての海と半島、丘陵がパノラマをつくりあげている。きょうの天気予報は曇りのち雨だったが、ありがたいことに予報は大外れとなった。タカがまた1羽、上空に現れ、「ピッ、クイーッ」と2度、3度鳴いた。久々のサシバだった。
この山系全体を鞍子山と呼んでいて、それぞれのピークに名前はなさそうだ。便宜上、ここを西峰、もうひとつの高いピークを東峰と呼ぶことにした。岡田さん、三上さんが下山ルートを探したが、西峰の縦走路は急な岩場を下らなければならず断念。北側の稜線沿いも途中まで行ってみたが、険しいため引き返し、とりあえずは来た登山道を戻ることにした。
安山寺に再び着いたのは昼近くになっていた。ここで昼食にするか、もう少し我慢して東峰の山頂で食べるか。やはり、登山の昼食は山頂でなければ、ということになり、中腹に走る鋪装道路を東へと進んだ。途中で採石場内に入り、そこから東峰の山あいに続く階段状の登山道を登った。道沿いのところどころにオダマキが、花弁を下に向けた愛らしい姿を見せている。
階段を登りきったところで小休止。ここから地道の登山道となり、樹間を抜ける気持ちの良いコースが続く。正午を過ぎたころ、稜線に出て来た。右手には、今し方、登って来たばかりの西峰が迫力ある山容を見せている。西峰をバックに全員で記念撮影。
ここから尾根伝いのきつい登りとなる。山頂付近では少女とその親らしい3人が摘み草をしていた。メンバーの韓蘭霊さんによると、「山麻査」という山野草の新芽で、餃子の具にしたり、おひたしにしたりして食べるのだという。
登山道沿いの岩場にスミレが咲いていた。すると、「♪……心清き人、すみれの花のような……♪」と、「四季の歌」が聞こえて来た。歌っていたのは中国人の韓さん。その流暢な日本語と、とっさに日本の歌をくちずさむ語学力に敬服!
東峰の山頂に立ったのは午後12時45分。この東峰から見ると、西峰はやや低く見えるが、ほぼ同じ高さだろうか。推定標高は約200メートル。遠くに大黒山が霞んでいる。飛行場も、発着する飛行機も、大連市街地や金州、旅順方面も見える。このパノラマは感動ものだ。「大黒山に匹敵するほどの素晴らしい山だね」と岡田さん。大連山の会の“お馴染み登山コース”になることは間違いない。
頂上わきの草地で昼食。手作りのお弁当をつまみ合いながら、「おいしいね」という声が上がる。ニュージーランド生まれのデイビッドさんはサンドイッチ、三浦昭彦さんは大きめのおにぎり、韓国の金泰淑さんとペイ己爛さんは韓国風太巻き、韓さんは骨付きの鶏肉を味付けしたものと、それぞれお国柄が出ていて面白い。
韓さんのご主人の劉景元さんが山麻査を摘み始めたので、私も採ることにした。20分ほどで両手いっぱいほどの収穫。その夜、自宅でおひたしにして食べてみた。ちょっとほろ苦さがあるが、味と香りは春を感じさせる。そういえば日本の山では、山菜「コシアブラ」の新芽がいま、真っ盛りだろうなと、懐かしい野山に思いを馳せた。
午後1時40分、登って来た方向とは反対側の南へ延びる馬の背を伝わって下山することになった。岩場の登山道からなだらかな樹間コースに変わり、高度が低くなるにつれて東西の峰がバランス良く配置された山容がはっきりわかる。「南側からだと女性的な優しさがあり、北側から見ると男性的な荒々しさがある、とても魅力的な山ですね」と三上さん。
山麓の由家村の集落に入って来たのは午後2時20分。民家の庭先にある桐の花が美しい。サクラの木には小さなサクランボの実が鈴なりになっている。あと1か月もすると、甘酸っぱい味と香りが楽しめるだろう。町中を抜け、旅順北路のバス停から大連駅近くの建設街行きバスに乗る。運賃は2元。ありがたい安さだ。
それぞれ帰宅するのに便利なバス停で下車し、バスの中で流れ解散となった。久々に本格的な山登りだったが、安全なルートを選んだためトラブルがなかったことが何よりだ。そして、半年前に見つけた山が、期待を裏切らない秀峰であったことも、疲れを心地よいけだるさと満足感に変えさせていた。普段は乱暴とも思えるバスの運転が、この日ばかりはとても気持ちよく感じられたのだった。
写真は上から
西峰への登山口となる安山寺の境内
西峰の頂上で記念撮影
東峰の稜線で。後方にそびえるのが西峰
東峰からの展望。霞んでいるが飛行場もよく見える
由家村からの鞍子山。右が東峰、左が西峰