22.アイロンやさん


■□■アイロンやさん■□■

インドの人たちは服装に気を使う。とてもおしゃれである。

特に女性は、ブラウスとサリーの色をコーディネートして、その色に合わせてバングル(腕輪)をじゃらじゃらとつけ、指輪を選ぶ。サンダルも、その日の服装に合わせて色を合わせている。

サリーのブラウスはオーダーメイドで、たいていの場合はサリーを買うついでに、そのサリーの色に合うブラウスを作る。首や腕まわりを測り、胸囲などを細かく測定し、丸い襟にするか四角い襟にするか、胸元が大きく開いたものにするかなどの希望を言う。だから彼女たちは色とりどりのブラウスを持っている。それとペチコートさえあれば、布一枚のサリーを家族や友人で取り替えながら着ることができるのだ。布を巻きつけるだけなので、体型が異なっても関係ない。長い布である。旅行に行く時にもかさばることがなく、きれいにたたんでカバンに入れることができる。

そのおしゃれのもとは、どうやらアイロンがけにあるようだ。

インドでは誰もがアイロンを持っているわけではない。しかし私たちは、道端で「アイロンかけ屋さん」を見つけることができる。力車を台にしただけの、屋台のように移動できるアイロンかけ屋さんである。

彼らはたいてい、裸足である。裸足ということは靴(サンダル)を履いていないという事で、多分アウト・カーストであろうことは容易に察しがつく。彼らの職業はアイロンかけと決まっているカーストだろう。滞在するうちに、どうやら洗濯をするカーストや掃除をするカーストなど細かく分けられているらしいことが、だんだんわかってきた。

裸足の彼らは暑い中、朝早くから木の陰に台を広げ、持ちこまれた洗濯物を山のように積み上げてアイロンがけを始める。暑いのにアイロンをかけるのだから、汗がだらだらと流れ出てくる。木の影が移動すると、彼らアイロン屋さんも移動する。

私はアイロンをかけるような服を持っていなかったのだが、同居人たちは暇さえあればアイロンをかけていた。忙しくて時間がない時には、近くのアイロンかけ屋に持っていく。服を入れる袋に入れて持って行くと、かけ終わったらその袋に入れて家まで届けてくれるのだ。

ある日のこと。それは久々に落ち着いた休日だった。私たちはホールに集まり、ゴザを敷いて寝そべったり、手紙を書いたり、雑音が入って何を言っているのかわからない白黒テレビを見てくつろいでいた。

そんな中で、私より一つ年上の同居人が汗だくになりながらアイロンがけをしていた。一週間分の服がたまったとかで、彼の横には服がどっさり置かれてる。これから農村に出掛けるというのに、アイロンをかけないと着て行ける服がないから、急いでアイロンをかけているのだと言うのだ。

それをボーッと眺めていた私は驚いた。彼は、下着や靴下にもアイロンをかけているのである。そんな物にまで汗をかきながらアイロンをかけることはないのにと思いつつ、よく見ていると、それは彼だけではない。ランニングシャツにもアイロンをかけている。彼らは何もかもに、アイロンをかけているようだった。 「カナエ、君はかけないの。かけている姿を一度も見たことがないのだけれど。」 と聞かれる。私はTシャツやGパンにまでアイロンをかけない。下着や靴下になんて、とんでもない。気をつけて見ていると、どんな物にかけるのかは別として、頻繁にアイロンがけをするのは同居人たちだけではなさそうだ。もしかしたら日本人よりも、彼らは頻繁にアイロンをかけるかもしれない。

何かの本で、どこかのアジアの国民がアイロンをかけるのは、そうすることで菌を熱で殺菌する作用があるためだと述べられていた。もしかしたらここでも同じかもしれないと思って尋ねてみたが、 「ふーん。そんなの知らないよ。」 と、興味なさそうに返されてしまった。


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