14.座ってみよう


■□■ちょっと実験■□■

私が村を訪れる時に一番神経を使ったのは、村の人に会う瞬間であった。第一印象が大事とはよく言うが全くそのとおりだ。私は「外国人を一度も見たことがない」という村に行くことが多かったため、村の人たちに威圧感を与えないように気を使った。たいていは、村に調査に来て帰って行くNGO職員と間違われる。また、仏教を布教しに来たのかと問われることもある。
村に入る時に、何もせずじっとしていたらどうだろう。
私は、マリアに話をして「じっとしている」ことを試みることにした。

偶然にも村のリーダーが約束の時間に現れなかった。バスを乗り継いでたどり着いたその村に、人影はない。到着したのは午前九時半だったため、学校に行くことができる子供たちは学校に行き、大人たちは働きに出ているはずだ。あと数時間待てば、昼食と昼寝のために人々が帰ってくるだろう。

その日も肌を突き刺すような強い日差しで、私たちはわらぶき屋根の影に座ることにした。その場所は村の通りに面していたため、誰かが来るだろうと考えたのだ。一時間が経過したころ、一人の男性が通りかかった。見慣れない私たちの姿を見つけると、何をしているのかと話しかけてきた。今日初めてこの村に来たと自己紹介をすると、「ふーん」と言って通り過ぎて行った。

次に来たのも男性だった。彼は週に一回、学校に行くことができない子供たちを集めて夜間教室を開いているという。もちろん、学校に行っている子供たちも一緒である。彼は勉強だけでなく、例えばココナツの木の植え方と育て方、薬草の使い方、掃除の仕方なども教えている。

また別の男性が来た。彼は普段、ケララ州で働いていると言った。マリアの出身地がケララというだけあり、彼とマリアは盛り上がった。彼は意気込んで、この土地とは違いケララにはたくさんの仕事があるのだと話してくれた。それから、彼はこう付け加えた。「ケララ州のほうが賃金が高いよ。」

ケララ州の教育水準の高さは、インドだけでなく海外でもその名が知られているほどである。そこで教養を身につけたケララ州の人々は高収入のオフィスワークにつき、または都市に出て行くという。そこで何が起きるのかというと、肉体労働や低賃金の職につく人が足らなくなる。そのため、職を探しているタミールナドゥ州の人たちが雇用される仕組みが出来上がっている。

今度はおじいさんがやって来た。すでに私たちの周りを数名の人たちが取り囲んでいる。彼は私たちにこの村の歴史を話してくれた。
この村には約百軒の家があり、全ての家にトイレが建設されている。インドのNGOか外国のNGOかわからないが、NGO団体が来て全戸にトイレをつけたのだ。しかし、トイレとして使用しているのは二・三件にすぎないと教えてくれた。あとは水浴び場になったり、物置になっている。

気が付くと私たちは、仕事から戻った村の人に囲まれていた。男性も女性も、子供もいる。約束の時間に遅れて来たリーダーの姿も見える。リーダーがいなくても、私たちは村の人に囲まれた。そして、こちらから話しかけていないのに楽しい時間を共有することができた。私たちは外に腰掛けていただけだった。まだ村を歩いていない。

わいわいと話をしていると昼食の時間になった。いつもならワーカーの家で食事をするが、今日は違った。集まった人たちがそれぞれに「食事の準備は私がするわ」と騒ぎ出したのである。こんなことで言い合いをされては困るが、それは嬉しいことでもあった。問題はすぐに解決した。希望者が一食ずつ交互に準備することになったのである。これはこの村のもてなしなのか、それとも私たちの「実験」が成功したからなのか、どちらなのかわからないが、人々の反応がいつもと違うことは明確だった。


■ 次回は・・・最悪な村