生きていくものたちのために

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 世界を震撼させた事件が起きたのは火曜日でしたが、その週末の日曜日、救出活動の陣頭指揮に立つジュリアーニ・ニューヨーク市長が若いカップルの結婚式に出席している光景がテレビで報道されました。日本なら「責任者が大切な作業を放り出して結婚式!」「そもそもこんな時期に結婚式を挙げるのは不謹慎ではないか!」という非難の声があがるかもしれません。緊急時や喪に服している時期には、祝いごとを避ける、というのがどちらかと言えば日本の伝統のように思います。結婚式が終わり、教会の外に出てきたジュリアーニ市長に対して、アメリカのテレビ局のアナウンサーも同じような趣旨の質問をしていましたから、あるいはアメリカでも同じようなことが言えるのかも知れません。

 それに対してジュリアーニ市長の答えは、私が要約すれば、「悲しい時にこそ、人々は喜びの時を持たなくてはいけない。結婚式、子どもの誕生、そうした嬉しいイベントをみんなで祝いませんか。それが明日への力に繋がります」といったものでした。子どもたちのための美術館や動物園の無料開放などを考えると、ジュリアーニ市長が一番心を砕いているのは、残された人たちが精神的に早く立ち直ることのように思えます。

 こうした心理面以外のことでも、ニューヨーク市やアメリカ政府の対応は非常にすばやいものがありました。事件に巻き込まれた家族の家のローンの肩代わり、学費の減免、そして行方不明者の死亡証明書の発行など。死亡証明書がなぜそんなに早く必要かと言うと、アメリカはサインが必要な社会だからです。例えば亡くなった家の働き手の銀行口座に関する諸手続きには、日本のように引き出しの中の印鑑を押す、というわけにはいきません。本人のサインが必要ですから、死亡証明書を提示して、相続人の管理に移さないと、支障があるわけです。

 また機能しているのかどうかは別にして、失業対策もすばやく打ち出しました。今回の事件では大きなオフィスビルが何棟も倒壊し、周辺地域は立ち入り禁止になってしまいました。ニューヨーク市はすぐに代替オフィスの斡旋をはじめましたが、中には会社そのものが消滅状態になってしまったところも出たようです。そのために職を失った人たちの相談所がすぐに開設されました。市民に向かってもジュリアーニ市長は「皆さん街に出ましょう。普通の生活に戻りましょう。そして皆さんにできることは、いくらかでも街でお金を使うことです。それがお互いを助けることに繋がります」とアピールしました。

 死者のために生きている者がすべてを慎んで喪に服すのではなく、生きていく人たちのことを一番に考える。それがここでの流儀のようです。